小学生のみなさんとふれあいのひととき

きのうは、午前、午後とそれぞれ少しの間、東成瀬小学校の子どもさんたちといっしょのところで過ごす時があった一日でした。

まず午前。役場にいたら携帯電話へ突然の着信です。電話の向こうの声は成瀬川漁業協同組合の事務局長Hさんで「これから東成瀬小学校4年生の子供たちがイワナとヤマメを川に放流するので現場に来てみてほしい」というお誘いのご連絡です。

Hさんは昔からの知人で、アユもふくめ成瀬川への魚の放流のことなどでこれまでもいろいろとお話を交わし合ってきた間柄。ていねいなご連絡を受けましたので、魚を放す岩井川真戸橋上流へ早速かけつけました。こちらは、名ばかりの漁協の組合員でもあります。

きのうは天気もよくて、まさに「放流日和」。4年生のみなさんは目を輝かせて漁協の方々からいっぱいの稚魚をバケツに入れてもらい、時に歓声をあげながら水量の豊かな成瀬川へ次々と魚を放していました。イワナやヤマメはすでに漁協によって大量に放流されているでしょうが、今年もアユが真戸橋の周辺にも放流されたそうで、「ここのアユは水がきれいで美味」と評判の声が太公望さんたちから寄せられるそうです。

肴沢の堰堤に魚道があれば下流のアユものぼってこられるとのことです。放流されたイワナやヤマメが育ち、加えて岩井川の堰堤もふくめてアユがしっかりのぼれる川になれば、成瀬川は天然アユの遡上もふくめさらに「おいしいアユがいっぱいの川」として人気が高まり、村を訪れる渓流釣りの方々も増えるでしょう。

▼午後は、少し前から計画されていた「クマの被害にあわないため」ということでの小学校全校のみなさんとのお話の集いです。

増田警察署・東成瀬駐在所さんからの呼びかけもあったらしく、村教育委員会と小学校が主催した集いで、村の猟友会へ「語り」の役割が依頼されていたものです。こちらは猟友会の元会長ではありますが、いまは会員としてはかろうじて籍を置いているものの、銃はすべて廃止している身、もちろん役員でもありません。語り手としてはふさわしくないと思いましたが、会側から「なんとか」の頼みをされ、まずは引き受けました。

短い時間で、しかも保護者ではなく小学1年生から6年生までの子供さんたちだけに「被害にあわないため」のお話をするのはなんともむずかしいもの。10日ほど前に田子内大橋場コンビニそばの国道にかかる大きな橋を駈けるクマを、Tさんが車の中からスマホで撮ったという写真などを拝借しながら、なんとかかんとか語りの時間を過ごしました。

振り返ってみましたら、お話しようと思ったことの7割ほどしか語れず、しかも大事なことをふたつはずしていました。はずしてしまった大事なことの一つは子連れの母グマのこと。子連れの母グマには特別に注意が必要で、人と出会えば子をまもるために人を襲う場合が、単独行動のクマよりずっと多いこと。もう一つは人間が捨てたゴミもクマを人のそばに近づける原因となるので、道ばたや川、山にゴミを捨てないことについてです。

ジュースやビール、酎ハイなどの空き缶はクマが大好きで、ビールの缶を牙でズダズタに穴を開け缶を裂き破いて缶に残ったビールを飲んだりなめたりした跡がよく見られます。クマは学習能力が高いですから、道ばたに行けば空き缶が捨てられているとわかれば寄ってくることは充分考えられることです。ゴミでは食べ物類のゴミもあります。山へ捨てられる食べ物のゴミにもクマは集まりますが、用水路に捨てられるゴミもそれは同じです。

集落の用水路はやがて成瀬川に合流します。用水路に食べ物類のゴミが捨てられれば、ゴミの流れ着く先は川との合流点。クマは腐敗した食べ物も大好きですから、ゴミがいっぱいのそこへ集まります。クマは普段でも集落に近づく時にたいてい川岸を伝ってきます。私の推測ですが、各集落で、大きな用水路が成瀬川と合流する場所近くでのクマ出没情報が比較的多いように思われます。水路に捨てられた生ゴミや空き缶がクマをおびき寄せている遠因となっている可能性も大いにあり、なのです。

結局、クマと出会ってしまう機会を増やしているのは私たち人間社会だということになります。きのうの語りのいちばんの目的は「クマの被害にあわないために」ということで、被害に遭わないために最も大切なことは「クマと出会わないようにすること」と申し上げましたから、クマをおびき寄せてしまうゴミのことはお話しておかねばならないことでした。これも先に学校から子供さん方へお配りしていただいた環境省のパンフレットなどにも書かれてありますので、先生やご家庭のみなさんからもっとくわしくクマのことを教えていただいたり、話し合ったりしてもらいたいと思います。

今回はそういうことのきっかけになればということで、お粗末な語りはごめんしてもらいます。いっぱいの子供さんたちと向き合っての語りってほんとにむずかしいものですね。学校の先生方の「教える」ご苦労をあらためて知ることになった集いで、どうもこちらが一番勉強になった催しということになりました。

最後に、この機会にひとつだけ記しておきたいことがあります。「クマ避け鈴をつけていてもクマに襲われた」「ラジオの音はかえってクマを人に近づけるのではないか」などを報道や出版物の文章でふれることがあります。しかし、それをもとにして「鈴やラジオはクマ避けに役立たない」というのは早合点過ぎます。前記のいろいろな事例については、どんな条件、環境のもとで「鈴があっても襲われたのか」どんな条件下で「ラジオを鳴らしていても襲われたのか」という検証が必要と思うからです。もちろん鈴が万能なわけでもありません。しかし、音を出して、臭いを出してクマに人間の存在を気づいてもらう、そのためにはラジオも鈴もまったく有効で、とくに人の声は最も効果が大きいこと。襲われないために、それにはまずクマと出会わないことが最大の防ぎょであり、その時、音は一番の役割を果たすことは確かですから、例外情報に振り回されずクマを遠ざける基本の対策をおろそかにしない。それが大事だとこちらは考えていることを記しておきます。