暖冬を経ての生きもの考

過ぎた週末17日の午後、県境近くまで上がり鳥海山を遠望しつつ深山の残雪風景を少しの時間目にしてきました。この日は、新型コロナウィルス禍、再度休校となった童といっしょです。山に向かった目的は、残雪の自然を歩くことと森の生きものたちの観察です。運がよければ「冬眠明けのクマ、それにクマタカを見られるかも」というわくわく感をもちながら双眼鏡持参で向かいました。

できれば県境の北尾根まで上がり、その尾根を北に少し進み南本内川やその支流のヒヅヅ(羊・ツルクラ沢)のカッチ(最上流部)、山内・黒沢分水嶺方面の三森山近くまで足を伸ばす予定でした。が、車から下りて雪上を歩き始めたら、足が20㌢ほど雪に沈みます。

たとえ午後からとはいえ、晴天の堅雪の季節にこれだけ雪に足が沈むのは意外なこと。「この雪のぬかり具合では、雪山歩き初の童を連れて県境までは上がれない」とすぐさま雪上歩きは断念しました。積雪量が少なく、暖冬だったためか、シラパデ(締まった堅い雪の層)が少ないためか、雪の締まりが今年はどうも緩いのです。

歩き始めたすぐの雪上にはカモシカらしき古き足跡があります。すでに爪の痕がはっきりしないようなクマの足跡らしきものもあります。2~3日前ほどに歩いた痕でしょう。足跡からしてかなりの大グマらしく、それは南本内側か三又・黒沢方面から来て合居川方面に向かったように見えます。足跡が古いし雪に足が沈むし童もいっしょなので追跡は止めました。

県境近くまで上がったついでに、集落の狩人たちが昔からクマ狩りのクラ(崖)として通い続けた「ブサ穴」を前にして「あの崖の松の木が二本並んでいる右手(東側)に、ブサ穴というクマの冬眠岩穴があるんだよ」などと教えながら、童に双眼鏡で崖をのぞかせました。この穴で冬眠したクマだけでなく、ここら一帯の崖は日向で雪解けが早く食べ物が早く見つけられるためか、通りすがりのクマたちがよく見かけられるのです。

もう4月も半ばを過ぎ、例年この時期になればクマの春山有害駆除が始まる頃。でも今年は里山ではあまりに雪解けが早く山が「黒く」なってしまい(雪が消えた山を村の狩人は、黒くなったという)、クマの姿は林や藪で確認がむずかしくなってしまいもうほとんど無理。

残雪がある山もこのとおりで雪に足が沈みますから、雪の堅い朝は歩きやすいが帰りにこれだけ足がぬかったらカンジキがないと、やはりこれではクマ狩りに必定の遠出も無理でしょう。つまり、今年の春は、有害駆除でのクマ狩りはどっちでもなかなか気が進まないということがあるのかもしれません。雪上の山ではこれからが春熊駆除の最盛期となるのですが、雪の締まりがよくないのに加え、もうブナ芽吹きの嶺走りが始まっています。葉っぱが萌えれば視界が遮られます。こういう狩る側の悪条件が重なっている今年は、おそらく、例年に比べ春に捕獲されるクマはかなり少なくなるのではと推測されます。

暖冬少雪の今年は、クマの捕獲数減が推測されるだけではありません。それに加えて、県南や県内に急速に増え始めたとされるニホンジカやイノシシも、冬の間の捕獲はおそらく雪が少なく藪が多くて県内ではそれほどの成果はなかったと思われます。雪が少ないために彼らの多くは、普段は活動しにくい豪雪の土地でも多くがそのまま生き残り、今年はいっきに繁殖数を増やす可能性が大と推測されます。クマもイノシシもシカも、異常な暖冬を経た今年はこのように生息数増が推測され、被害増加の可能性を私は心配しています。