肥える土を運ぶ大ヒラ(大底雪崩)

先日ご紹介した、わが集落真向かい山の斜面、通称「キノギッピラ」に毎年見られるヒラ(底雪崩)。豪雪の今年は例年に増して雪崩の規模が大きく、日曜日にその雪崩跡そばに近寄ってみて、大雪崩のすさまじさをあらためて感じました。

雪崩の3月になると、私の記憶は今から50数年前にさかのぼります。沼又沢のブナ材伐り出しで山小屋に泊まる作業員たちへ食材などを背負い運ぶ女たちの列に混じって山へ歩いた昔のことです。馬場から沼又オドヂ(大栃)やススコヤ(すずこや)の山小屋があった沢までの間に大きな雪崩の落ちる箇所が何ヵ所かありました。

そのうちの一箇所はとくに大雪崩で、雪崩跡のデコボコの雪の間をあっちに曲がり、こっちに曲がりしながら女たちと雪崩を越え歩いた当時を想います。

さて、キノギッピラのこの大雪崩もふくめてヒラは、同じ雪崩でもワス(表層雪崩)とちがい雪とともに大量の土肌を削り取って滑り落ちます。雪崩の落ち止まるそこは肥えた成分を含む土がいっぱい溜まる箇所でもあり、アエコやホンナなどとりわけ良質の山菜が植生する場所ともなります。なにしろ、何百年、何千年と土が溜まり続けるわけですから。「いい山菜を採るなら土が多く落ちる雪崩の下へ行け」なのです。ただし、そこは、常に落石や、残っていれば落雪の危険もあるので厳重注意の箇所ではあります。

ヒラの落ちる下方には清水が湧き出ていて、ミズバショウも小さな新芽をのぞかせるようになりました。成瀬川も連日淡い雪解けの笹濁り色となり、流れの勢いを日ごとに増しています。

童といっしょに大きなヤマメを捕れる小川も、一つ、二つ、三つと渕にかぶさっている雪も次々になくなり、まもなく渓流釣りの足跡がのこされはじめるシーズンとなります。(写真のヤマメはその小川での昨年夏のこと)