山菜の旬の季節が、沿岸部や県北部よりかなり遅れる県南地方奥羽山脈寄りのわが村。雪が多いためそうなるのですが、その村の深山にもタケノコ採りのシーズンがやってきました。
山菜採りを生業とするハギミと呼ばれた方々は、むかしから春~初夏にかけての生業の柱はゼンマイ採りとタケノコ採り。この2つの山菜と秋のキノコで収入の大本を確保したといってもよいほど大切な収入源の山菜でした。おそらく、それは今も同じでしょう。もちろん、ほかのあらゆる山菜も貴重な商品だったでしょうが、ゼンマイとタケノコは収穫量も販売額も別格だったのです。
質の良いゼンマイの採取地は深山渓谷の急斜面が多く、素人が気軽に向かえるところではありません。でも、タケノコ採りなら、昔と違って林道や国道が山の奥深くまでめぐらされていて、どなたでも道ばたから気軽に入れるようになり、それが遭難多発にむすびついているともいえます。
毎年、遭難事例がいくらあっても、クマの襲撃によるいたましい死亡や負傷事例がいくらおきても、タケノコ山はいずこも車、車、車、人、人、人です。タケノコが人をひきつける魅力は、「魔力」のようでもあります。「えっ、こんな所にまで!」と思うほどわが村のタケノコ山へは、村人よりも平野部など村外の方の入山がおそらく多く、隣県の山形からの方々がまことに多いというのも長年の特徴です。みなさん、村人よりもタケノコ山に詳しいでしょうが、それでも遭難はほぼ毎年のようにおきています。
今回わたしが入った村の山も、タケノコが早く出ている箇所を私よりよく覚えているらしいのは山形の方とクマ。ここを根城にしているらしいクマは、あちこちでタケノコを食べた跡や糞をのこしていました。これからしばらく、クマは今の季節の主食ともいえるタケノコ山から離れずに暮らします。昨年、例年以上に多く生まれたとみられる子グマも一歳半となり母親とほぼ同じ大きさになった個体もいるでしょう。今年生まれた子グマを連れた母グマもタケノコ山は食のカナメ。そこは人にとって危険の巣と化しているといってよいでしょう。タケノコ山に入るということは、そういう予知と備えが必要なのです。
きのうは晴天でしたが、タケノコ採りが盛りとなるこの先は雨天や濃霧の日が続く予報です。村の役場担当課も、警察も、消防も、「遭難発生」に備えて気の張るシーズン入りと思われます。それは遭難捜索隊の我々も同じです。