夏の焼石、花山行(その2)

早い朝飯を自宅でとり駐車場到着が5時25分。すでに2台の車があり、うち1台はこちらとほぼ同時着。それは羽後町の方で、「定年で都会から町に帰り住んでいる」といわれて、「いつも、自宅の方から焼石方面をながめ、いつかは登りたい山と思っての実行」との旨を語ってくれました。

早朝のブナ林歩きはまことに気分爽快。射し始めた朝の陽光が木漏れ日となって樹幹を照らします。何の鳥でしょう、姿は見えませんが小鳥らしい鳴き声も時々伝わります。

道沿いにはオトギリソウ、エゾアジサイ、ツルアリドウシの花がちらほら。五合目シャガヂアゲから南の森方面をながめたらそれらの頂上には厚いガスがかかっています。オホーツクの気団のせいでしょうか、栗駒方面にもガスが流れ寄せています。7合目「柳瀞」を過ぎての小さなミズバショウ群落地には、クマが茎を食べた新しい跡が見えました。

タゲの「すゞ(岳の湧き水)」がある焼石沼の草原到着は7時半。まず草原手前の昔の牛の監視小屋があった「すゞ」で顔の汗を流し、しびれるほどに冷たい「すゞ」で喉をうるおし、草原に出て高原の朝の空気をいっぱい深呼吸です。

草原には、この季節に熟れるエゾノクサイチゴの実が鈴なり。同じように熟れたサンカヨウの黒い実といっしょに、高原の味覚をたっぷりとごちそうになりました。天然のいちご園にはクマの親子連れもふくめ野の生きものたちが常駐でくらしているらしく、イチゴの草むらはかれらの通った大小の道筋があっちにもこっちにも。草原の石が不自然なかたちで何個も起こされていますが、これだけ大きな石を起こせるのはクマだけ。石を起こしてアリやアリの卵を食べた跡でしょうか。そばにはサグ(エゾニュウ)の茎を食べた痕跡も。

日中のかれらは、おそらくイチゴ園すぐそばの藪にひそみ休んでいるはず。「これは気をつけねば」と思いました。おいしいイチゴとサグが大量にあるので、クマたちがここから離れることは考えられないのです。イチゴの味を知るクマの数も一頭ではないでしょう。イチゴは8月いっぱいほどは実が熟し続けるでしょうから、山行きの方々は要注意です。

焼石沼はイワナやニジマスの宝庫。岸べに立ち寄ったらたった一角だけで、いるいるイワナが数えたら6匹も。うち1匹がこちらに近づいてきましたので草むらに身を沈めてカメラを向けました。沼全体ならどれだけの魚が棲んでいるのでしょうか。童の頃には近所の小学生たち4~5人だけで焼石に登り、水中メガネをかけ潜ったり泳いだりした沼で、釣りや突きで手にした魚を焼いて食べ、夜には草を敷いて寝た当時を思い起こしました。およそ50数年前の小学校夏休みの頃のことです。

8合目周囲では、やはり草原のオニシモツケとヤマハハコが夏の代表花。タカネナデシコもここから群落をつくり9合目まで登山道はさながら「なでしこロード」です。オニアザミとタテヤマウツボグサも夏に目立つ花。キンポウゲもまだ所々に残り咲きが観られます。