ブナの森の象徴トガクシショウマ

「トガクシショウマの花に会いたい」その思いひとつでこの土曜日、深山渓谷に向かいました。この花と私が最初に出会ったのは今から40年ほど前でしょうか。そこは北上川支流の奥州市胆沢川上流部にある渓谷の急斜面で、土地は岩手の山ですが、秋田のわが村わが集落では古代から「地元の山」として親しんできた所。そこで山菜採りの際に偶然花が目に入ったのでした。それ以後は、わが村の深山渓谷でもこの花の群生地を目にすることができ、以後は毎年のように花時を見込んでそこへ通い続けています。

今年は花の着きがとても多く、美しさはピークぎりぎり。群生の中にはもう色褪せているところもあり、この日会えなければアウトという状態でした。そばには深山の貴婦人とでも呼びたくなる日本の名花シラネアオイも花真っ盛り。二つの花とも、肥沃な土のあまり溜まらない急斜面が好きなようで、とりわけトガクシショウマはそれが徹底していますから、写真に収めるにはやや手こずります。何度も斜面の足下をかため、左手は柴木につかまり、右手でカメラをもっての少々危ない片手撮りです。下手すれば写真どころでなく「滑り落ちる」、ここのトガクシショウマはそんな急斜面に素敵な群落をつくっています。

それらの斜面には深山なのでゼンマイも今が真っ盛り。場所によっては、前述二つの花とゼンマイが隣り合わせていたり、シドケの群生もすぐそばでみられたりします。崖下雪崩跡の肥沃な地面には、雪解けがおそいので真白きサンカヨウも花見頃です。

すっかり若葉に模様替えしたブナの森。灰白色木肌のブナに混じり1本見える黒みがかった木肌のミズナラは、秋にミャゴ(マイタケ)をいただける大樹です。樹下にはムラサキヤシオツツジが花盛りです。谷の上部に向かえば岩手との境を成す山々の残雪と新緑、ブナの森深山だからこそ望める景色が眼前にひろがります。展望のきく尾根では毎年決まったところでゆっくりと腰を下ろし新緑が生み出す空気をいっぱい吸い込みます。

深山のヒラ(底雪崩)跡は、ちょうど氷河が土を削ったのに似たような痕跡をヒド(小さな沢)につくります。ヒドは雪崩で運ばれた斜面の肥沃な土が溜まるところで、そこはウドやシドケ、アザミ、サグ、アエコなど山菜の宝庫となります。

山菜の豊富な雪崩跡はクマ公たちも食を摂る場所で、この季節のクマの主食ともいえるサグ(シシウドの仲間)を食べ、あちこちに糞をした跡もよく見られます。食事をした場所に糞をするのはクマの習性としてよく見られること。わざわざ食事場所で糞をするのは「ここは、オレのえさ場だぞ」という発信の証なのでしょうか。ニリンソウとオオバキスミレの花園の中にも大きなクマでしょう、特大の糞の塊もありました。糞は新しいものではありませんが、サグは今々食べた痕跡ですし、糞の様子からしてクマの体もかなり大きそうなので、谷に響く大きな追い払い声を発しこちらの存在をクマ公に知らせました。

谷に倒れた大きなミズナラの枯れ木からは、毎年天然のシイタケをいただいております。朽ちが進むにつれて発生量が少なくなり、今年はわずか3個出ているだけでした。