深山も山菜真っ盛り

春祭りの食卓につきものの山菜をもとめて山に入った人々は「雪が少なかったのに、山菜の時期はそれほど早くなかった」と言います。

私が通う里山近くの谷でも、「山の進み(緑化)はそんなに早くない」という印象を持ちました。

深山渓谷でもそれは同じで、9日に通った深い谷では今がウドやシドケの真っ盛り。昔のハギミ(山菜キノコ採りを生業とした人々)の方々が、国有林にあるゼンマイをめざして何十年も通い続けたガンクラ(崖)のゼンマイも、これから真っ盛りとなります。

以前の今の季節なら、この谷には集落の幾人かのゼンマイ採りプロの方々が山入りしていたもの。谷が幾筋もあり大きいので、おそらく競合しないように「Aさんはこっちの沢、Bさんはこっちの沢、Cさんはこっちの沢」と、それぞれ採り場をすみ分けしていたのでしょう。

それぞれの谷につけられた春先の山道を一番最初によく手入れしたのはゼンマイ採りプロのみなさんでした。なにしろ、中には一歩まちがえば百㍍前後もの断崖を滑落してしまう急斜面を横切る山道もあり、彼らはそこを重い荷を背負って横切ったのです。時にその道を歩いた私も、そういう断崖の箇所では息を一瞬止めて、慎重過ぎるほど慎重に歩を進めたものです。つかめるモノは何も無し、滑落すれば一巻の終わり、ほんとにそれは危険な道でした。

山菜やキノコで春から秋の生計をたてた彼ら山の先輩たちのほとんどが鬼籍に入られ、雪解け水の激しい濁流をこえてこの谷に入るプロのゼンマイ採りはもう誰もいなくなりました。以前のように森林管理署職員のみなさんも山深く入る姿はほとんど見ることがなく、ハギミのみなさんの山入もなくなったので、渓谷の道はほとんど廃道となり、とくに崖の道は完全に通れなくなっています。私の春と秋の渓谷歩きは、今は廃れてしまったそこの山道を通い続けた往時の人々をしのぶ山入りともなります。

雪が少なかったといっても、そこは国内有数の豪雪の深山。最大級の雪崩が起きる谷にはヒラ(底雪崩)の雪がまだ厚い塊で長く広く残っています。

雪崩の斜面はいずこも山菜の宝庫。そこは人だけでなくツキノワグマの大好物のサグ(エゾニュウ、シシウドの仲間)が多く、今々クマさんが食事をした足跡もありました。この日はめずらしくイワダラ(ヤマブキショウマ)を食べた痕跡もみられました。