今年もあとわずかとなりました。お伝えした村の自然のその一年を、いくつかの場面を切りとりながら振り返ってみたいと思います。
1月、まずは親しんでいる成瀬川の岸辺へ。たんぼそばの里山では、タヌキの一家たちが暮らしている雪の下の土穴の様子を見学しました。裏の里山では、ヤマドリともご対面。1月初めで早くも3度目の雪下ろし。童たちも遊び半分で手伝ってもらいました。
2月28日、滝ノ沢の採石場にシカがあらわれ、それを採石会社のTさんが写真にとらえました。その写真をお借りしてこの欄でみなさんにご紹介したのが3月でした。一瞬のことだったと思いますが、Tさんはほんとによくシャッターチャンスを逃さずに写してくれたものです。村に生息する生きたニホンジカを撮影されたのはこれがおそらく初でしょう。その後も、岩井川土倉地区でやはり「オスジカを見た」という報があります。イノシシの目撃情報も今年は春からありました。じわりじわりと、村にもシカ、イノシシの復活の兆しがみられた年でした。
三界山がとっても素敵な姿で満月とならんでいたのも2月でした。雪に月、これに花があればいうことなしですね。
県境の尾根は自然がつくった大きな壁。この壁には、平野部から強い北西の風がまともに吹きつけ、ブナの木々に「雪の花」を咲かせます。それは、寒気の下でつくられる、降雪と強風の合作による自然の芸術です。寒中には、そんな場面を歩く幸運もありました。
いよいよ雪解けの春。芽吹いたバッケを摘みに童たちと川辺にたわむれます。春一番のユギノシタキノゴ(エノキタケ)にはいつも心がわくわくします。
4月、陽射しが暖かくなったら生きものたちも恋の季節。鳥たちの巣作りもちらりほらりと見られるようになり、相方の羽づくろいでもしているしぐさでしょうか、睦まじいカラス2羽を見かけました。野にはチャワンバナコ(キクザキイチゲ)の可憐な花姿が、あっちにもこっちにも。
若き頃から老いまで、県南の人々に多くの思い出を刻んでくれた真人公園の花見桜。老木となった今も見事な花姿を見せています。
5月、次から次へと山菜が芽吹きます。山里では、ゼンマイを毎日のように採って、ゆでて、干しての作業に一心の日々が続きます。
除雪後の雪の回廊をめぐって車で楽に上がれる須川高原。そこは、手軽に雪上の春山歩きができる絶好のハイキングコースとなります。草木が萌える前のブナ林や高原歩きもよし、芽吹き直後のブナ林と高原歩きもよし。雪が堅くなって自由に歩けるこの限られた季節の雪上散策の愉快さ、痛快さを、もっと国内外の方々に知っていただきたいものです。ぜひ一度、スキーもカンジキもスノーシューも必要ない、靴だけでの雪山歩きの楽しさを体験してみてください。そこには、花や生きもの、鳥たちとの楽しい出会いもあります。
ブナの森深山の名花トガクシショウマが咲くのもこの頃。赤滝も雪解けの濁流で一年でもっとも荒ぶる姿を見せます。轟音をあげる瀑のそばには、タムシバ、オオヤマザクラ、ムラサキヤシオツツジが遠慮がちに咲いています。
里にドグツヅジ(レンゲツツジ)の花が咲く頃、奥羽山脈の大きな群生地としてはほぼ北限に近い栗駒山麓の貴重なシロヤシオツツジ(ゴヨウツツジ)が見頃となります。毎年、妻とこの花を眺めに通います。今年は、数年に一度の花数の多い年でした。
田んぼの畦をクワによる手作業で削ったり、塗ったりしているのは地元集落では我が家をふくめほんのわずかの農家だけ。同じ部落のSさんご夫婦が、成瀬川に合流する合居川のそばで早朝のクロ塗り(畦塗り)仕事に励んでいました。タンポポの脇では我が家のクロ塗りも。
5月末はいよいよ田植え。猫の手も借りたいといいますが、ご覧の野良猫はゆったりしたもの。近年、ここらに住みつき、国道の歩道を東西往き来し、あっちの家、こっちの家と規則正しく渡り歩いているたくましい猫さんです。名前はわかりません。なんとなく可笑しさを感じさせる猫で、過去にもカメラをむけたことがあります。
田植え後、夕刻の早苗田に斜めの陽ざしを見る頃になれば、カエルがいっせいに鳴き始めます。ほんのひとときですが、春の一作業を終え、農家ならではの安堵の気分にひたれるのはカエルの合唱が聞こえるこんな時です。