花の百名山・8月半ばの焼石岳(その1)

ご来光は拝めぬものの、「なるべく朝早くの景色を見たい」と12日、朝4:46分に自宅を出発。歩き始めは5:10分。3合目「ンバシトゴロ(姥懐)」の駐車場には車が1台あり、窓を塞いでいる。夜中にでも到着したのか、まだ車中でお休みのようだ。

ということで、登山道にはどなたの足跡もない。前日の雨でそれまでにつけられた足跡はすべて流れ消えている。この日の東成瀬コースからでは、こちらが道へ足跡をつける最初の人ということになる。道を最初に踏むというのは、なんとなく気分がいいものである。

歩き始めてすぐ、雪解けの遅い沢で色鮮やかなエゾアジサイをながめ、県境際からわが集落の一部をのぞめる箇所に止まる。朝霧に覆われた集落をまずは写真に。
4合目胆沢川支流大森沢のブナ林は、いつも記すようにこちらが若い頃ブナ材の伐採・搬出(バチジョリや大ジョリの雪ソリで何カ所かに集材、それを集材架線で秋田側へ上げた)や、切り株へのナメコ栽培などで、雪の上、夏場、秋とはたらいたところ。いま残るブナの原生林はそのときに伐られなかったブナたち。みな、水沢営林署の旧胆沢町愛宕担当区管轄の国有林だ。その林、ブナの樹幹に朝日が差し込み始めた中を歩く。        6合目与治兵衛近くの川は、いつもの夏より水量が多い。奥羽山脈の東側に集中した先日の雨に続いて前日にも雨があったからだ。そういえば、大森沢の最源流部にもわずかの水流がみられた。登山道の随所で流水を気軽に飲めるのが焼石の特徴だが、この日はさらにどこでも流れる水が飲めるほどに水が豊か。
7合目柳瀞(やなぎとろ)手前の小さな湿地のミズバショウが倒され、茎が折られている。何ものかが座ったような跡もある。まちがいなくツキノワグマの仕業だ。湿地には、ミズギクだろうか6~7輪の花がみられる。                  8合目焼石沼手前「タゲのすず(岳の湧水)」の水枡に桃太郎トマトを冷やす。手を浸してみて数秒間しか耐えられぬほどに冷たい清水で喉をうるおす。こちらが小学生の頃は、ここに日本短角牛(あがべご)の自然放牧を監視する小屋があった。沼のそばにその小屋が移ったのはそれからずっと後で、今はもちろん自然放牧も、小屋の面影すらもない。
沼到着は7:40分。鳥海山がアザミの花のむこうに見える。朝飯を立ったままでとり、ゆうゆうと岸による大イワナたちを見つめる。昔も今も沼はイワナとニジマスの宝庫。近所のガキたちだけで夏休みに登り、泊り、自炊し、ここで泳ぎ魚を捕ったガキの頃を思う。沼の草原にいっぱいのエゾノクサイチゴはおいしい実の時期がほとんど過ぎている。残っている実のいくつかをつまみ懐かしい味を口にする。夏の草原に真っ白に映えるオニシモツケも大方は花が過ぎた。草原周囲でいま見ばえがするのはアザミと大型のサグ(エゾニュウ)、白装束のヤマハハコ、それに猛毒のトリカブト。