紅葉の焼石岳だより(その1)

去る10月2日、久しぶりで紅葉の季節の焼石岳に登りました。「紅葉の季節にも、ぜひいっしょに」と山行をお誘いし、ご希望の方々がいたのでしたが、急な決定でしたので申し訳なさを抱きながらも今回は一人での歩きとしました。

いつものように突然の山行きを妻に告げて、にわかに出発。林道終点駐車場には宮城と岩手の車が2台あります。フロントガラスには露がいっぱい着いていて曇ったまま。ここで車内泊でもして早暁に山へむかった方たちなのでしょうか。

こちらの歩き始めは6時15分。夏場とちがい花の数が少なく歩きははかどります。時々、若い頃ブナの伐採搬出(雪上のバチ橇運材と架線による集運材)作業をした大森沢のブナの林を見つめて立ち止まり、ツバメオモトの紫の実や赤いマイヅルソウの実、それに秋の花ウメバチソウやダイモンジソウをながめつつゆっくりペースで進みます。

8合目、タゲの沼(焼石沼)手前のタゲのすず(すゞ水・湧き水)に、いつものように果実(和梨)を冷やし、まずは沼の岸辺で一休み。もう8時15分になっています。沼には相変わらずイワナの姿が多し。

小山ながらもわが集落からよく見える湧水そばの「もっこ・モッコ」森と材木岩(柱状節理の崩れた跡の岩)の周囲はいつも紅葉の美しいところ。ここら辺りがなんとか見頃の紅葉で、それより上部はもう葉っぱの散った木々や色褪せた木が多くなっています。つまり、思わず「息をのむような」焼石のもっとも見事な色づき盛んは残念ながら少々過ぎ具合。「無理して、みなさんに声をかけないでよかった」と、そんなことをまず思いました。

見頃の紅葉なら、沼の水面に姿を写す「南の森」も、8合目から上部の登山道沿いの錦の絨毯も一服しながらの眺めがお見事なのですが、今回は、そういう「息をのむ」錦模様とはいえません。それでも、晴天続きで葉っぱが落ちずにかろうじて残っているカエデ類があるので、「とりあえず、頂上まで向かってみるか」という気分にはさせてくれます。

遅咲きの夏の花ハクサンフウロとタカネナデシコを時々目にしながら9合目の山の神(焼石神社)近くまで上がったら、神社には先行の方が一人見えます。こちらも神社で、今年最後の諸々の感謝と今後の安寧・無事への祈りを込めて拝礼し、さあ頂上へ。

頂上着は9時20分。焼石の紅葉は、何ヶ所かで「オッ、これは、すごい」と立ち止まり息をのむ見事な観賞の場があり、そのうちの一つが、焼石頂上からすぐそば、登山道のない「南の森」の紅葉です。南の森は、笹の緑が木々の紅をひきたて、実に見事な錦秋景色をつくります。「南の森」の東南麓すぐにひろがる小さな湿地の周囲も、草黄葉から低木の黄葉が美しいところ。全体として連峰の頂上周辺と直下はどの山も紅黄葉は「過ぎ具合」です。が、雪解けの遅い「南の森」東部斜面などはかろうじて「これを見られただけでよかった」と思わせられる錦模様を、ぎりぎりセーフで山ノ神様は残していてくれました。