花の百名山 焼石岳に夏の百花繚乱(その2)

盛夏の焼石岳は、花の百名山ともいわれるだけあり頂上も数々の花で彩られる。

ハクサンシャジンやミネウスユキソウ、トウゲブキ、ハクハサンフウロがそれらの代表格で、8月に入ればミヤマリンドウも咲き始めている。この日は強い風に花が揺れる。私の手では揺れる花を接写にするにはむずかしい。さらに老眼なのにメガネをかけないで撮るものだから、ブレていたりボケていたりの画面が多いことに、後で気づいている。

頂上の花を撮り終えてからは「横岳方面へ行こう」と岩手側登山コースへ下りる。そこではじめて濃い霧の中から「カラーン、カラーン」とクマ避け鈴の音が聞こえる。音はすれど人影は霧で見えない。しばらくして音が近くから響くようになったらご夫婦らしい登山者の方たちが登ってきた。下りるにつれて一人、また一人とのぼってくる方が増えてきた。

 

横岳分岐周辺は、初夏の花ハクサンイチゲが遅くまで咲くところ。まだつぼみ状態もあって小さな群落をつくっているが、霧が濃く群生は霞んでいる。風もまだ強い。これでは花見と展望を楽しむことはムリ。横岳行きはあきらめて姥石平へ直行する。さっきすれ違ったクマ避け鈴の方たちも頂上に着いてすぐに下山したようで、人影は見えねど霧の中からカラーンカラーンの響きだけがまたよく聞こえる。

ここからは、花期を過ぎたチングルマの風車状の実が美しいところ。トウゲブキやマルバダケブキ、キンコウカの黄色、ハクサンシャジンとタチギボウシの紫、カラマツソウやナンブトウキ、ハクサンイチゲの白、ハクサンフウロのピンク、朱のクルマユリと、登山道は花の道。時々、ベニバナイチゴ、ウラジロヨウラク、エゾシオガマ、ハクサンシャクナゲ、池塘脇にはイワイチョウ、ミヤマリンドウも加わり、立止まりつつの花見歩きとなる。

霧が濃くてすぐそばの焼石の頂上も見えない。それで警戒心が薄れたのか、キツネが突然目の前にあらわれた。写真におさめようとしたら、瞬時に身をひるがえして背高の草の中に潜み姿を消した。こちらも少々驚いたが、向こうはもっと驚いたような表情をしていた。

権四郎森(南本内岳)分岐手前の雪田もすっかり雪がなくなり、春の花リュウキンカが盛りだ。ミズバショウも霧に霞んで咲いている。コメツツジなども遅咲きの花が見られた。

沼まで下りたら、わずか一時だけ霧がやや上がり始め、薄い陽射しもあった。が、タゲ(焼石岳)も、南の森も、権四郎も、さんさげ(三界山)も頂上は霧に覆われたままだ。

沼の霧は上がり、オニシモツケの白花が朝よりも映えたのでここで一休みし、野イチゴもたっぷりとごちそうになる。妻へのお土産にタゲのすゞ(湧き水)をペットボトルに3本詰める。枡に浸しておいたトマトは、歯がしびれるほど冷たくなっていて、それを元気づけにして帰路につく。駐車場到着1時半。岩手ナンバーの車が3台あった。車道脇で、実を結び始めたマタタビや色鮮やかなエゾアジサイを撮りおさめ、俄な山行きを終えた。