真冬の大森山へ(その1)

きのうは久しぶりに真冬の大森山まで向かい、ほぼ7時間ほどの山歩きで体を鍛えました。

国道397号冬季通行止め地点からの歩き始めは7時45分。朝の降雪がなくカンジキを履けばほとんど足が沈まないほどの雪状態なので歩きははかどります。途中の雪上には、リス、キツネ、テン、ノウサギ、カモシカ、ヤマドリなど生きものたちの足跡がよく目立つ雪状態です。テンとヤマドリの足跡が交叉している場面などを見ると、捕る、捕られるものたちの厳しい自然界の様子を連想してしまいます。

この季節のヤマドリが好んで食べるウメボドゲ(ツルウメモドキ)の実がゆっさりの蔦もあります。雪の上に落ちた実はノウサギもよく食べます。

国道沿いの雪崩は前日あたりに一度落ちたばかり、土肌が見えます。日当たりもよいので春には山菜がいち早く芽を出す斜面なので、生きものたちも私もシーズンのはしりをいただきに向かう急斜面です。雨が降ったせいか沼又沢は2月初めにしては水量が多いようです。

国道歩きは途中まで。村の簡易水道取水口付近で国道と分かれ、林の中の最短距離をほぼ直線で焼石登山道入口方向へ上ります。60年ほど前でしょうか、雪上の春山で木材搬出をした当時に山小屋のあった「すすこや(今はすずこやと呼ばれているが、むかしの山人や狩人らはすすこやと呼んだ)」の手前で新しいノウサギの足跡を目に。

その足跡は、夜の活動を終えたウサギが柴木の下に伏せる時みせる「隠れの技」の跡。その技とは、まずはジグザグの曲がりを繰り返し、いったん踏んだ道を途中で引き返します。狩人はこの動きを「戻りを踏む」と言います。戻りを踏み始めると、その直後に今度は大きく横に2㍍以上ほぼ直角に大きく跳ねて追跡者の目をくらまします。狩人はこの横飛びを「とっぱね」と呼びます。「とっぱね」は隠れ技の最終段階で、この足跡を見つければウサギはその界隈すぐに伏せています。

警戒心がとくに強い個体などは、稀にとっぱねを2回、あるいは3回も見せることがあります。きのうは、その隠れ技の足跡と、ウサギがブナの若木下に伏せていた跡を写しておきましたので、やや詳しく記しました。ノウサギそのものは私をとっくの先に見つけて脱兎のごとく逃げた跡で、姿を目にすることはできませんでした。

焼石登山の林道終点着は10時半。歩き始めからおよそ3時間。「足が重くなったから、ここから1時間はかかるな」と、頂上方面を見上げここで立ったまま初めて小休止。午後は晴れの天気予報を期待しての山行だったのに空は曇りのままで残念。ここまで上がったら寒くなったのでヤッケを着て頂上をめざします。

県境稜線では、ブナに着いた雪が白い輝きで目を引きます。陽射しがあればもっと美しい景色が見られたはずです。頂上近くになったら雪が堅くなり、木製のカンジキの爪では雪(氷状態)に爪がよく刺さらず滑るほど。北西の風がまともに当たり続ける西側頂部だからです。雪原の一部は雪というより一部は氷状態です。冬の富士登山や日本アルプスなどでの滑落なども、雪庇の踏み抜きとともにこれよりもはるかに厚く堅い氷面で足を滑らしておきるのでしょうか。なるべく雪の柔らかなところを選んで頂上に到着です。

頂上到着は11時45分。写真を撮りながらでも歩き始めから約4時間で上がったことになります。歩きやすい雪状態だったので、冬山としてはめったにないほど早く着いたことになります。

「ここまでの真冬の単独行は、これが最後かな?」とまずは記念の写真を撮り、360度の視界がひらける景色ながめをじっくり。この山の頂上は標高(1149.5)の割には視界がよくひらけ、それで雪山歩きの方には人気があります。

空は曇りながら鳥海山もまずまずの姿で見え、東には、権四郎(南本内岳)、サンサゲェ(三界山)、南の森などの焼石連峰。南には、仙北街道の尾根筋の向こうに東山、栗駒、秣があり、山の形はわかりませんが高松、神室や虎毛なども視界の中に入っているのでしょう。それらの背後には月山の一部らしい真っ白な稜線も薄く見えます。北には眼下に私がクマ猟やキノコ、山菜採りで入った合居川渓谷の嶮しく大きな谷がドーンとひかえ、岩手西和賀町南本内川渓谷境の尾根の向こうには薄く真昼岳や和賀岳方面が。それらの東寄りにかすかに岩手山の輪郭も確認できます。「晴天だったらなァ」とため息をつきながら眺めは終了。寒いので頂上での昼食は止めにしてすぐに下山開始です。