花の百名山・焼石岳(その4)

南の森(西焼石岳)の裾全体は、昔、自然放牧された村の短角牛が草をよく食んでいた所。

その南東部の湿地や横岳、獅子鼻岳の西南部を源流とする沢は、細鶴沢、風生沢、大岩沢、小岩沢、合ノ沢などがあり、若い頃に山歩きを楽しんだ沢や尾根だ。下りながら眺める栗駒、東山方面や古道・手倉越(仙北街道)筋に延々と連なるブナの緑も見飽きない。

横岳分岐に近づいたら咲き始めのハクサンイチゲが目につく。いつものように花の横岳コースにまずは入り、今度はユキワリコザクラとヒナザクラを観賞する。キヌガサソウとともにこれら3つの花も今日のお目当てだったのだ。

生長度合いの違いや地質など環境のちがいもあるからだろうか、姿形様々のショウジョウバカマも今日は朝からずうっと登山道沿いに途切れない。

泉水沼から焼石頂上をのぞみつつ、夏油・東焼石岳方面コースの分岐から姥石平へまわる。

ここからは、花はやや早いもののハクサンイチゲとミヤマキンバイ、ミネザクラ、ユキワリコザクラ、ヒナザクラと、まさに百名山花見の道となる。もう少し経てば、ここはハクサンイチゲの大群落にミヤマシオガマも混じる花のじゅうたん道となる。

夏油コースと分かれて焼石神社方面に向かうが、こちらの道は今年の人の踏み跡がまだわずかしかない。この道筋では評判のヒナザクラもチングルマも花はひとつもなし。やっと雪が消えたばかりで、夏に最も遅くまで雪渓が残る南本内川の源流部には、深さ10㍍をはるかに越えるだろう、スケールの大きな雪渓がひび割れ状態で積もり固まっている。

もう少し経てば、サラサドウダンやオゲッコツツジ(ウラジロヨウラク)も咲く花木の道となるコースだが、それらの花もまだまったく早い。やはりここもようやく咲き始めたミネザクラの独壇場で、樹下にはひっそりと咲くヒメイチゲがわずかに目についた。

ぐるっとまわって9合目から下りる途中、食べ頃のサグ(エゾニュウ・ミヤマシシウド)とミズバショウの茎が倒された食痕がある。クマの仕業だ。

登山道のすぐそば権四郎森(南本内岳)の南部裾には、夏でも滔々と清水の湧き出る斜面がある。雪を渡ればすぐ先だ。湧口からは勢いよくおいしい水があふれ出していて、そのまわりにはシラネアオイのちょっとした群生地がある。花盛りの群落は見応えがある。登山道の雪渓にはクマの新しい糞もある。さっきサグの食べ跡があったクマのものだろう。

登る時には時間が朝で花を閉じていたコミヤマカタバミも清楚な花姿を見せるようになっていた。ここまで来たら足がかなり疲れ気味。沼で大きなイワナを眺めながら休憩をとる。後に、ここではじめて秋田側から登ってきた4人の高齢者グループと行き会う。