小さな春をまた一つ

四季を分ける節目で、旧暦は2月の立春からを春としていますが、気象庁では3月から5月までを春としているそうです。

その春がはじまった3月。清水の湧口ではノゼリが軟らかな緑を少しずつ増し、草丈をほんのちょっぴり伸ばし始めています。まだ摘むにはかわいそうなのでそのままにしておきました。豪雪の村でも、小さな春を感ずる様子がこのように一つずつ増えています。

むかしは、もっともっと多く見られたここの湧水のノゼリ。ほかの野草に負けたり、生育土壌の悪化など環境の変化でしばらく前から植生は激減しています。わずかにのこっているここのノゼリ。この先もう少し経って雪解け水が増える頃になると、草丈が伸びて摘み取り頃となります。

むかしはこの清水の流れにもカジカが棲んでいました。雪解けの頃になるとカジカは産卵期をむかえます。セリ摘みでセリの根株に指先を挿すと、卵をかかえておなかを大きくしたカジカがノロノロとした動きで手のひらにのることもありました。

はるか60年前のそのときのセリの緑とカジカの姿、そして感触を、わたしの記憶と手指はいまでもよくおぼえています。この小さな湧水の流れにはもうしばらく前からカジカはおりません。