クマの棲むサグ山へ

5月も末の頃が近づくと、山菜のそれまでの主役であったウド、シドゲ(モミジガサ)、アエコ(ミヤマイラクサ)、ホンナ、ウルイ、アザミなどに代わり、主役の座はワラビやサグ(エゾニュウ・シシウド)の中心茎へと移ります。

サグは、昔から村人が好んで食べてきた山菜で、若くて軟らかな中心茎だけを切り取り、皮をむいてそのまま塩蔵。冬に塩出しして、鍋物の具として重宝されます。

我が家でも、おでん風大根鍋に欠かせぬ具で、量の多寡はありますが毎年一度はサグ採りに向かいます。サグは深山のネマガリタケノコが出るまでのこの季節のクマの主食であり、クマの食べ跡に気をつけ、声や音を出してクマを追い払いながらの採りというわけです。

サグのある渓谷の斜面には、雪崩の塊が今年はとくに多くあります。雪の上には雪崩の直撃を受け根こそぎ倒され落ちてきた大きなブナがあちこちで横倒しになっています。これを見れば、ブナの大木を倒してしまう雪崩の破壊力のすさまじさがよくわかります。斜面には雪がまだあり、その融雪にあわせておきる落石もありますから「よくよく気をつけねば!」です。

ところで、数ある野草や樹木のなかで、クマはなぜ春から初夏の季節、とくに選んでサグやタケノコを食べるのでしょうか不思議です。サグは別にシシウドなどとも呼ばれます。草丈が大きいから「シシ」の字をあてたのか、それともクマをシシとも呼びますから、シシが好んで食べることを指してそう呼んだのか私にはわかりません。いずれ、サグはタケノコとともにクマにとってとても大切な食べ物です。

我が国では最強の動物とされるクマ。あの想像を絶するクマの力の源となるのは、今の季節だとサグ。サグには、クマにとって何か特別の栄養源となるものがあるのでしょうか。

▼5月のはじめ、村内の柳沢地区に今年生まれた子グマを連れた母熊と、大きなオスグマ2頭の計4頭のクマが目撃されたことを記していました。その後、柳沢と隣接する馬場地区の通称カトリノの畑で、クマの足跡が確認されています。これは走った様子の足跡ですから、日中、人影か何かに反応して逃げようとした跡のようです。

このように、彼らは集落そばの里山にも「定住」しています。里山でも彼らの食べ物のサグがたくさんありますから、入山にはくれぐれも要注意です。