愛しく美しい森の生きものたち

一週間前には雪が深くて上がれなかった自宅北側のブナの森へ、23日の日曜日に今年初めて上がりました。

この日は予想に反しておだやかな一日となり、サングラスがほしいほどの陽射しも時折ありました。

そんな好天に誘われ、「よし、生活用水の取水源を見回りながらの山歩きだ!」と告げ、念のため昼食を持参。カンジキを履いて八卦沢への歩きを開始したのは8時。

積雪2㍍近い山中は足が雪に20㌢ほど沈むだけで比較的歩きやすく、どんどん高度を上げることができます。雪上にはノウサギ、リス、テン、タヌキ、キツネ、カモシカ、ヤマドリなど生きものたちの足跡がいっぱいついています。

村の里山にあるミズナラはいずこもナラ枯れ病におかされ、この日上がった山も所々で被害樹が目立ちます。被害樹のなかでも枯れ葉をつけたまま立っているのは昨年病原菌に侵されたばかりの幹です。正常に生きている幹は秋になると枯れ葉が落ちるのですが、病にかかった幹は紅葉することなく夏に葉が枯れてしまい、その葉っぱは秋になっても冬になっても落葉できずにこうして残っているわけです。

植物もふくめあらゆる生態系にとって自然の循環がいかに大事なのかということを、不自然に残っている枯れ葉を見て思わされます。一昨年より前に枯れた幹には、ここでもナメコやムキタケなどキノコの発生した様子が冬にも見られます。もちろん、食べられる状態で自然冷凍していたキノコは、早速お土産としていただきリュックに詰めました。

さて、その後のことです。ミズナラよりもブナが多くなる地点まで上がった時、70~80㍍ほど先のブナ林の中に、黄金色をして雪原をひらひらと動く生きものが林に見え隠れしながら目に入りました。「うんッ、キツネかな、テンかな?」と目を凝らしたらそれは金色に輝き「まばゆい」と言いたいほどに美しいテンです。

まだこちらに気づいていないようで、だんだん私に近づき、眼前にあった尾根雪の陰に姿が一瞬隠れました。こちらは「めったにないシャッターチャンス!」と急いで雪の尾根に駆け上がったら、今度はテンがこちらに気づき全速で走り出しました。その間のわずかにあったチャンスにシャッターを押したのが金色に輝くテンの姿です。成獣のテンで大きいですからオスでしょうか。毛の光沢も申し分のない1等級の美しさをもった個体です。

この日は、テンとの出会いの前にリスともご対面。時々雪を顔や体にまぶしてのすばしこい動きをしばらく眺めながら、少し遠かったのですがそれも写真に収めることができました。シジュウカラの仲間の小鳥が虫を食べようとしてでしょう、忙しそうに枝をつついている様子も飽きることなく眺め続けました。

生きものたちとのうれしい出会いの後、尾根の8分目ほどまで上がれば、毎年一休みするブナの大樹があります。幹がここまで太くなるには樹齢300年近くは要するでしょう、集落や村の様子を江戸の昔から見下ろしてきたここらあたりの里山では屈指の大木です。

一休みしてブナ林をしばらく眺め、いよいよ横手市山内三又と境を接する分水嶺の尾根に到着。この尾根は多くのクマの通り道で、ブナの幹には毎年つけられたクマの爪跡がたくさん重なっています。

ここまで上がれば気温はぐっと下がり、手袋をしていても親指と人差し指が寒さでかじかむほどです。おだやかな日和でしたが遠望は利かず、岩手山などは臨むことができませんでした。

ノウサギとの出会いも期待しての歩きでしたが、意外にもそれは無し。でも、美しさと愛しさいっぱいのテンとリスに出会えて満足。帰路はいつものように直角近い一部の尾根を跳ね下りて岩井沢を辿りました。歩きやすかったので帰宅は11時少し過ぎ。およそ3時間ちょっとのうれしい里山歩きでした。