雪上の仙北街道へ(その1)

4月も半ばを過ぎ、冬ごもりを終えたクマたちが山のあちこちで見られたとの情報がこちらにも入るようになった。

そういう知らせを聞けば、越冬穴のいくつかを知るこちらは黙っていられず。それに雪上の春山歩きも大の趣味なので、晴天が予報された20日(土)に急きょ山行へ。

いつものことながら前夜に急に決めての行動ですが、妻は前日のこちらの気配を覚っていて、食べものの準備などをすかさずしてくれる。向かう山は小出川に連なる仙北街道。

歩き始めは国道397号とホテルブランへの分岐交差点を7時25分。今年は、342号の除雪が終わったばかりで、まだ397号の除雪はされていない。予報の割には雲が多くなり、冷たい風がある。

いつもの直線最短距離で大森山トンネル入口着が8時45分。冬に大森山へ登ったときにここまでは同じコースを歩いた私のカンジキ踏み跡がそれらしい足跡として残っている。カンジキの踏みぬかりで雪が固められるためそこだけ雪解けが遅れて盛り上がっているから、春になっても足跡がわかるのである。

風はさらに強く冷たくなった。上りの歩きでも汗は出ず寒いほど。そこまでは軽装で歩いたが、耐えられない寒さなのでヤッケを取り出し冬構えへ。県境の尾根に到着は9時10分。ここは気流をさえぎるものがなく帽子が飛ばされるほどの風の勢いだ。堅雪の季節なのだが、林の中は朝でも足がやや雪に沈み歩きにくい。

秋田・岩手県境尾根からの眺望はいつ来てもすばらしい。眼下の北上川支流胆沢川は川筋がすべて現れるほどに雪が消え、流域のブナの森の全体が視界におさまる。三界山はくっきりと山容全体を見せているが、主峰焼石岳などは頂上の少しがガスに隠されている。風とガスの様子で察すれば、焼石、栗駒もふくめ今日の標高1500㍍クラス以上の東北の山々は冬山といってよいほどだろう。

ここ県境の尾根に立ち、眼下のブナ林を見つめれば、数十年前の春山ブナ伐採の頃を必ず想い起こす。ほぼ同じコースを歩いてきて、尾根から大森沢に下り、仕事場到着まで3時間近く歩き、最たる重労働(巨木の伐採とバチゾリやオオゾリでの搬出)にはげみ、日暮れとともにまたこの尾根を上り、岩井川馬場まで毎日歩き通してはたらいた若い当時のことだ。ほんとに、みんな、毎日よく続けられたものである。

そんなことを思いながら県境の尾根を南に進み、今日の目当て仙北街道へ。ここからだと、街道にたどり着く最短距離として私は胆沢川支流の岩ノ目沢に入り、決まって沢を縦断する。岩ノ目沢は、一度も伐採されたことのないよく言われる千古斧を知らぬブナの美林。その魅力あふれる美林を歩きたいという目的もあってである。