天然マイタケもいよいよ登場

栽培モノが広く市販され、今では一年中食べられるのがマイタケ。でも、栽培モノとちがいやはり天然モノのミャゴ(マイタケ)は、シシタケと並び、いつの時代になっても豪雪の土地ではキノコ界の王様です。

「香りマツタケ、味シメジ」はキノコをあらわす時多くの人々がつかう言葉です。されど、味ということでなら幼菌から成菌になる直前の食べ頃盛りの天然マイタケはシメジと同等か、あるいはそれ以上の評価を人々はつけるでしょう。それに、天然マイタケの醍醐味は、味で最高級のこれほどのキノコが、一本のミズナラ大木で一人で背負いきれないほど収穫できることも時々あるという、発生量のケタ違いの多さです。

その天然マイタケが今年もカオを出し始めました。同じミズナラでも、枯れ切った幹の根元や倒木の根元などはマイタケの菌が早く活動するのか発生が早くなり、シロフと呼ばれ本来の色よりやや白いマイタケとあわせてそれらは「増田のお祭がくれば、出る」(9月14が宵宮で花火、15日がお祭り)とよく言われてきました。

なので、村のハギミ(山菜・キノコ採りを生業とする人々)の方々は、この町祭り時の増田の朝市の日をひとつの季節指標にしてミャゴ(マイタケ)採りを始めました。増田のお祭り、花火、といえば早出のミャゴ採り開始となるわけです。ただしそれらの品質は、本来のクロフと呼ばれるマイタケよりも落ちます。

早生モノはたいがい形も味も一段落ちるのは自然界の常。わが集落では、天然マイタケの格付けを、特A級はシモフリミャゴと呼ぶ10月の霜の降る頃に出る晩生株。A級はクロフで通常の株、そしてB級がシロフ、あるいは早出の株と大きく3段階に分けます。

今年はそうした早出のマイタケだけでなく、A級のクロフもすでにカオを出し始めていました。写真のミズナラは、ミズナラとしては二本とも最大級の太さの幹で、その根元からいただいたマイタケを過去にこのブログで度々ご紹介している木でもあります。

この日は、まだ採るには惜しい株もあり、3分の1ほどは見置き(残す)としました。これがもう1週間ほど経った頃に運良く出会えたなら、それこそ1本のミズナラだけで30㌔ほど、背負いきれないほどの収穫量にきっとなったでしょう。今回は30本ほどの通い慣れたミズナラをまわって発生が見られたのはこのたった2本の大木だけ。ですから、まだ今年の作柄の良し悪しはわかりません。

林内を歩いて目立つのは、深山渓谷の国有林ミズナラ大木にまで侵犯しているナラ枯れ菌です。老木に取り付いたマイタケ菌が長年かけて幹を倒すのと違い、ナラ枯れ菌はわずか2~3年ほどで大木をいっきに枯れ死させます。ナラ枯れ菌の勢いの強さをみれば、深山でのマイタケ採りがほとんどできなくなる時がもしかしたら「そんなに遠くない時期に、やってくるのかも」と思ってしまいます。幹の死滅の速度があまりに早いからです。

ブナの森でみかけた赤いホウキタケ、ハナビラニカワタケの仲間やヌメリツバタケモドキの仲間、ナラタケモドキ、オオコガネホウキタケの仲間、サモダシ(ナラタケ)などもご紹介です。谷では、こちらの声と鈴、ラジオの音に驚いてでしょう、石に大きな水跡を残して今々逃げたクマの足跡もありました。

▼今回の山入では、おそらく一生のうちに二度はないような出来事を目にしました。それで、少し長くなりますが、話題はホヤホヤの新しいうちにということで記します。

その出来事というのは、クマとの出会いのことです。これまでも、狩猟や写真撮影の一コマとしてクマのことは度々とりあげてきましたが、今回は出会いといっても、単純な、バッタリの突然遭遇ではなくとんでもない出会いです。前述の足跡をつけたクマとは別です。

そのとんでもない出来事は、樹高が電柱より5㍍ほどさらに高いよく幹が伸びた杉林のそばを歩いていた時のこと。5㍍ほど離れた杉の幹の上で突然、バリッバリッの大きな音がします。風もないのになんだ?と上を見たら真っ黒な物体が急速度で落ちてきました。

音を聞き始めた時は、バリッバリッでしたが、落ちる途中で黒い物体をよく見たらそれは大きなクマ。手足を大きく広げてやや体を斜めにしながらさらにバリッバリッバリッと直下の枯れ枝や生の枝をすべて折り、ドーンと谷に響く大きな音を出して幹の根株に巨体がもんどりうち、こちらには向かって来ずに急斜面をものすごいスピードで遁走し見えなくなりました。人を恐れるクマ、逃げようと焦れば「クマも誤って木から落ちる」のです。

腰のナタに手をかけましたが、よくこれほどの至近距離ながらクマはこちらに向かってこなかったもの。とっさに、子グマ(もうだいぶ大きくなっている)がいるか?と思いましたが、特別の場合をのぞいて母がこの時期の子を置いて自分だけ逃げることはまずありえず、いたのは落ちてきたその大熊(120㎏ほどはあるか、オスグマでしょう)一頭だけ。クマがもんどり打った根株と地面には、血痕も、彼の黒い毛の一本も見えませんでした。

後で杉のてっぺんをみたら、黒いヤマブドウの実がいっぱい生っています。かなり離れたところの広葉樹に伸びたヤマブドウの木が、そばにある杉林のテッペン部分にまで次々と蔦を這わせ、クマはそれを目当てに梢まで這い登り実を食べていたというわけです。

その時、木の下にこちらが来たのに気づくのが遅れ、あわてて逃げようと、おそらく杉の枯れ枝をつかんだのでしょう。枯れ枝に大熊の体重がかかったら折れるのはあたりまえ。クマはそこまでの判断がつかなかったらしく、電柱よりはるかに高い所からあの全体重が落下したというわけです。なるほど、バリバリ、ドッスーンの音はすさまじいものだったわけです。あれほどの高さから堅い根株に落ちたのに、なんともなく逃げるクマはさすが。

狩猟では、生きたクマと手が触れるような近さで何度も遭遇した場面がありますが、こんなに高い木から落ちるクマを近くで見るのは初めてのこと。今回は鈴の音を出して歩いたもののラジオはちょうどこのときは電波が悪くスイッチを切っていました。それでも鈴のおかげで遅まきながらもクマが気づき、こちらには何事もなしの遭遇で済んだのかもしれません。

今年は、ヤマブドウの実が豊作です。これからはヤマグリもいっせいに実ります。これらクマの食べ物がある所に入る方々は、万全の注意と備えが必要ということで、体験からの警告です。