苦労をしのぶ水路跡

まだ根雪とならず積雪ゼロがしばらく続いています。

落葉広葉樹のひろがる豪雪の村では、家まわりも里山も落葉はとっくに終わり、草藪では背の高いススキなども初雪時などの積雪で倒され、見通しがよく利くようになりました。

こうなると林の中では普段あまり気づかない昔の人々が歩いた山道跡がくっきりと現れたり、家周りの川筋などでは、岩を削って田んぼに水を引いた跡が目に入るようになります。

我が家前の成瀬川、通称「さくら淵」そばにもそんな昔の水路跡が淵筋に沿ってあり、昔の人々の苦労の跡をしのぶことができます。

その水路そばには、私も長い間植え付けを委託されて作業したことのある田んぼがありました。しかし、村の沢目筋のほとんどすべての田んぼが辿った道のように、やがてその田んぼも作付けされなくなり、わずかの間にススキなどの雑草が繁茂し、たちまちのうちに樹木も増え始めています。

今年のノーベル平和賞はWFP(世界食糧計画)が受賞と伝えられました。世界で飢えに苦しむ人々は1億人。飢え状態に向かっている人々を加えるとその数は2億7千万人とWFPの代表の一人は言いました。それは、主たる原因は同じでないでしょうが、あたかも我が国のあの幕藩体制時の飢えをほうふつとさせるものです。一方に、耕作可能な大量の土地と豊かな水がある国で農地が荒れ、「飽食」といわれる存在があり、一方に、耕作不能の地に住む、億の単位の「飢え」る民がいる。これが、高度に発達した文明をもつ地球人類の2020年末の現実です。

どんなに狭い土地でも「水さえ引ければまず田んぼの開墾!」と励んだ昔の人々。お米の価値が今では想像つかないほどに高かった時代をふりかえるのに、あるいは飢餓の時代を知るのに、岩を削ってつくられたこの水路跡、そして開墾の汗を流した田んぼ跡はとってもよい歴史教材となります。