規模拡大だけでなく、光る中小規模経営にも視点を

10頭いたかどうかというほどの乳牛を飼い、ごく普通規模のたんぼをつくり、それで立派に生計をたてていたUさん(故人)という農家が横手盆地におられた。

若い頃、わたしはよくこの家におうかがいした。世の中が「大規模、大規模、とにかく大規模経営」へと農業の規模拡大をあおる時に、広大な牧場や草地があるわけでもない平場で妻と二人酪農を営んだUさん。

小さな規模で長い間立派に経営を確立していたUさんのはたらく姿を目にして、そして時には、いかにも農業人らしい骨太の手でお茶を飲みながら談笑する姿をみて、これが日本農業のあるべき姿なんだ、篤農家とはこういう方を指すのだと教えられたことを今も思い出す。

もちろん酪農家だから、みなさんが出稼ぎにむかった時もUさんは農業からの収入だけでがんばり、こつこつとしたはたらきで自宅の新築もかなえた。

世間は広いから、Uさんと同じように小、中規模でも専業農家として人々から尊敬されている農業人はほかにもおられるだろう。そんなに規模の大きな経営でなくても「農業で食べれる」という証をしめしてくれている全国のこういう方々から、国も、地方ももっと学ぶべきと思う。

日本農業の発展方向は規模拡大だけにあるのではなく、秀でた技と経営能力をもてば、まずまずの暮らしをささえる収入が確保できるような家族経営の道もこのようにある。中には専業と肩をならべるような優れた兼業農家もいる。それを実証している農家を紹介しながら、必ずしも大規模ではないながら希望を灯し続けている中小の農を育て支援するのも国政や地方政治の大きな仕事ではないだろうか。

TPPを軸に規模拡大にあまりに傾むこうとしている国の農政。集落を維持するという特徴をもつ「日本農業の進むべき道」は、そんな機械論だけでない、わが国らしい独自の方向を政治がもたねばとこの頃とくに思い、小農でも頑張っておられたUさんの生き方をふりかえった。

そういう素晴らしい中小の篤農家とは天と地ほどの差があるこちら。ただ、先達が拓いた農地を耕し続けねば、活用しなければと「農の根性」だけはなんとかなくしたくないと今はふんばっているところ。「米なば、買って、食ったほう、ずっとええ」との流れが加速し、そのとおりだということをわかっていながら、「経済だけで、割り切れるものでねぇ」と、3度目の畦草刈りに例年よりやや早めにとりかかったこちらも小農のはしくれ。CIMG5078-1

▼作業を終えたら、栗や栃の葉などを食べる大毛虫が、一本の木を食べ尽くしたのか移動中。蚕より一回り大きな虫で、図体が大きいだけに、さすが被害をもたらす規模も大きい。CIMG5081-1