中秋の名月、そして秋分の日をむかえればアケビが熟れ時となる山間の村。この頃になると、深山でも里山でもサモダシ(ナラタケ)がいっせいにカオを出し始めます。
冬の間の味噌汁や納豆汁、煮物の具として多くの家庭で味覚が楽しまれるサモダシ(ナラタケ)。いま採れるのは早出のサモダシで、湿地などに最も早く出ていたネスゲモダシ(ヤチナラタケ)とともに食卓にのぼります。
どなたでも簡単に多く採れ、そのうえ良い出し味が出るサモダシは、多くあるキノコのなかでも村ではトップクラスの人気。量は別にして「サモダシだけは採りたい」という家庭が多いようです。
▼ブナの森のキノコ採りでは沢や滝登りはごくあたりまえのこと。前夜に雨があったものの川は目立つほどの増水とはならず、いつもの秋のような流れで沢登りも滝登りも苦はなし。深山の沢筋ではダイモンジソウが花盛りです。
沢がひろがった流れの岸辺を歩いていたら、突然足下でイワナがバシャバシャと浅瀬で水しぶきをあげ動きを止めました。産卵期にはまだ少し早いのに、なぜ体が空気に触れるほどに動きが鈍くなる浅瀬に泳ぎ進んだのでしょう。生きものたちの世界には不思議なことがままあるものです。
▼滝のあるきつい沢をのぼったら、一週間前に見置き(取り残し)していたミャゴ(マイタケ)は最大限に生長し、1株で2.6㎏あるやや大物もありました。この季節になると度々記す「見置き」のこと。昔人はユーモアを込め「山の見置きと、アネコ(若い娘)の見置きはアデ(あて)にならねェ」などと笑いながらよく言いました。今回は、ほんとにめずらしいことですが、久方ぶりにアデにならねェ「見置き」と対面することができました。
このところの我が家の食卓は、味噌汁、春のタケノコや最晩期のフキといっしょの煮物やお吸い物、てんぷら、一夜味噌漬け、ぬたあえ等々、一年ぶりに季節本番をむかえたキノコづくしの日々が続いています。