人には、好きなもの、きらいなものそれぞれありで、動物の種への好き嫌いもそれらのうちの一つ。私が動物のなかでもどうしても好きになれない代表格はハ虫類、なかでもヘビ。
でも、ヘビは、干支の大事な一員でもあり、ヘビ年生まれのみなさんも人口のおよそ12分の1はおられるはず。それに、ヘビはネズミ退治などでとっても大事な役割を果たしていて、歴史的には崇めの対象とされるほどの貴重な存在でもあります。そう、まだ他にもあります。猛禽類のクマタカやイヌワシなどは、夏場の主食のひとつがヘビ、もしヘビがいなかったら彼らの生態系は大きく崩れるでしょう。
ということで、まず、嫌われもののヘビへの偏見を解いたうえで、今日の言葉ならべははじまります。
実は、先月の26日、童とたんぼのまわりを散策していてそのヘビを目に。よく見ると、それは一匹ではなく二匹のヘビ。
よくあることで、おそらく雌雄のヘビが合体しようと連れ添っていたのでしょう。私はこの生きものには興味がありませんからただ立ち尽くしていました。ところが、生きものすべて、とくに、は虫類、両生類に特段の興味をもつ童は、二匹のヘビに霧中。
そのうち童は「あっ、求愛だ」の声を上げました。なんと、二匹のヘビが口を大きくあけてお互いの胴体に弱く噛みつき、しっぽをからみつかせ、けいれんし始めたのです。図鑑か何かで知ったのでしょう。求愛というよりも、これは愛そのものでしょうが。
ヘビの交尾シーンは幾度か見ていますが、お互いに噛みついての「求愛・交尾」などは私もはじめて見ることで、これにはおったまげてしまいました。噛みつきを終えた後の二匹の胴体には薄く互いの歯の跡がつきました。この時の二匹に警戒心はほとんどゼロ。こんな時にもし猛禽類など天敵が居合わせたら二匹ともたちまちあの世行きでしょうが、時間も長かった、この「求愛」の度胸には感心してしまいました。ヘビは命を捨ててでも愛にはしるという、これはそんな一瞬の写真です。動画でも記録しました。童は「求愛」という言葉でこのシーンを表わしましたが、命など無頓着に愛を深める、ヘビも、みなさん、なかなかやるものではないですか。
カメラを手におよそ30分近く、二匹の愛を視察し記録していた私と童の姿を見ていたお隣のたんぼ作業の方が、近くにいた別の方に「あの、しとだぢ、何、してらななんべぇ(あの方たちは、いったい、何を、しているのでしょうか?)」と不思議がっていたようです。我々は、究極の求愛シーンを観察していたのです。おそらく、童は、このシーンを記憶のずっと奥深くに大切にしまいこんでいて、時々、記憶の引き出しをあけるのでしょう。