花の百名山・焼石岳に夏の百花繚乱(その1)

「夏に、焼石のご来光をもう一度拝む」と予定し、7月末に2度計画をたてた。しかし、一度目の予定は曇りで中止、2度目がこの31日夜に歩いてきのう1日朝のご来光拝観計画だったが、それも予報では曇りの様子が濃いので早めに中止した。

そうしているうちに、ご来光とともに出会いたい夏の花たちも一週間、2週間と経つので花によっては見頃を終わる種もでてくる。

それで「まずは花を観て、みなさんに紹介しよう」と、きのう急きょ焼石にむかった。急な山行決定なので、もちろん一人の歩き。

穂が出始めた田んぼに水を入れ、早めの朝飯をとり俄に出発。林道終点の駐車場から歩き始めは早朝5時半。まだ車は一台もなし。登山道は7月に刈り払い整備がおこなわれたばかり。

予想したより霧が濃く、時々ブナの幹が見えなくなるほど。霧のために山全体がやや暗いので、登山道脇に咲くツルアリドオシの白い花が小さいながらも目を引く。

胆沢川に下りてから登山道をはずれて川沿いに少し歩いたら、淵に棲むイワナがもう瀬尻に泳いで獲物を待ち受けている。彼らも朝の活動開始は早いのだ。

タゲのすず(湧き清水)到着7時50分。清水の枡に桃太郎トマトを冷やして沼の岸辺へ向かう。こちらでもイワナが盛んに活動中で、何度も岸に寄ってくる。一帯の草原では少しのノウゴウイチゴとエゾノクサイチゴの実が熟れ始めている。わたしらが小中学生の頃には、この2つのイチゴとイワナをめざして子ども達だけでタゲ(焼石)に登ったことは幾度も記した。その野イチゴを口にふくみ、テノマツ川(胆沢川の一部上流)の淵やタゲの沼に泳ぐイワナを見れば、その頃を決まって思い出す。

沼の草原に出たら、「ヒーヒー」と特徴ある小鳥の鳴き声がきこえる。いつの年の夏もこの草原で見られるウソ(里では冬にソメイヨシノの芽を食害する小鳥)だ。おそらくここらあたりで夏を過ごしているのだろう。草原には彼らの好む食べ物が多くあるにちがいないとも思われる。ここまで上がると風が強く霧がさらに濃くなり、草木にとまったウソも霞んでよく見えない。

夏の焼石の百花繚乱もこの草原一帯からはじまる。盛夏の季節、草原一帯に素敵な花姿を見せてくれる代表格は背の少し高いオニシモツケ。きのうは霧が濃くて青空も山もみえなかったが、背景にそれらがあるとこの背高の白い花は見応えがある。ヤマハハコとミヤマカラマツやモミジカラマツなどの仲間たちも、その白さがいい。

霧が厚いので長休みをせずに上へ向かう。沼から9合目のタゲの山の神様、そして頂上と進むにつれ花の種類も数もいっきに増える。代表格はタカネナデシコ、ハクサンフウロ、ハクサンシャジン、ミネウスユキソウの仲間、そして盛夏の焼石全体を象徴するマルバダケブキやトウゲブキ。時々センジュガンピも目に入り、クガイソウやキオン、ミヤマリンドウ、ミヤマホツツジ、遅咲きのウラジロヨウラクなども。すべてはあげきれない。ハクサンシャジンは均せば7月25日前後頃が一番の見頃だったと思われる。ハクサンフウロは花盛りだ。

山の神様で諸々の安寧をねがい、霧で湿っているために滑る岩を越えて頂上着は9時30分。体全体が動かされるほどに西風が強く、霧も厚いが、タカネツリガネニンジンやミネウスユキソウ、ミヤマリンドウなどを眺めて後、頂上の東側で風をしのぎ軽く休む。まだ誰も登山者はいない。