大日向山へ(その1)

30日の夕、ほぼ満ちた月が県境サンサゲェ(三界山)の南にのぼりました。

澄んだその空を見て、なおかつ予報は翌日も晴れそうでしたので、「明日は、久しぶりに大日向山にのぼる」と決めました。クマとの出会いが一番の目的ですから、もう一週間ほど経てばそのチャンスは高くなるのですが、日向の雪解けが早いので「もしかしたら、越冬穴の入り口あたりで日向ぼっこをしているかも」と、少々の期待ももったのです。

開けた31日(土)は予報通りの快晴。車道終点から歩き開始が7時20分。堅雪ながらまだ雪がゆるむ帰りのことを考え、カンジキを背にして山内・武道に通ずる林道沿いをしばらく歩き、途中からは沢沿いに最短距離をとって郡境の尾根に到着は8時20分。

関東などは桜の花見でしょうが、こちらは雪上に咲くマンサクの花見をしながら行き先を今度は東に変え、左は山内武道に至る金山沢、右は滝ノ沢の入会林野となる分水境の尾根を大日向山の方向に進みます。


途中、朝の食事を終えて反すうでもしていたのでしょう、カモシカが雪上に腰を落ち着け足まで伸ばしゆっくり休んでいて、あわてる様子をひとつもみせずにこちらをジッと見つめていました。こちらの姿を遠くから視野にいれていてです。

尾根の東成瀬側は村有地で滝ノ沢集落のブナの入会林野が見事に続きます。薪炭林の伐採を止めてからしばらくの年数が経っているように思われ、村のほかの集落の入会地のブナ山と同じで、ここも見事な美林が成長中です。

金山沢のカッチ(最上流部)には、里山にはめずらしくごくわずかのアカマツと深山に多いヒメマツ(キタゴヨウマツ)が混じって植生する中規模のクラ(崖)があります。ここは日向で斜面がきついため雪解けが早く、冬眠明けのクマをもっとも早く目にできる箇所のひとつですが、双眼鏡にクマの姿は映りません。ただ、昨年秋もめずらしく実のついたらしいブナの幹には、新旧のクマの爪跡が無数についた木がありました。近くには、木材・木工関係者なら思わず見ほれてしまうだろう見事な太さの山桐の木もあります。

金山沢のカッチは、名の通り、昔は鉱山のあったところで、このクラの下方には手掘りで開けられた古い坑口跡があるのを何十年か前、沢に下りて目にしたことがあります。

 

クラがよく見える尾根からは、特徴的な平鹿病院などをはじめ横手盆地の建物群と平野がよく望まれます。ここからの眺望がすばらしい鳥海山は、この日は霞んでいて残念。

 

大日向の頂上手前までたどり着くと、尾根はいったん100㍍ほど鞍部へどんと下り、今度は逆にいっきの登りです。周辺の特徴的なブナの根元でまずは一息。頂上まではもうひとふんばりです。