先日のヤマドリとの出会いの続きです。寒中の美の象徴ともいえる凜としたオスヤマドリの姿を目の奥に焼きつけたまま、今度は斜度のきつい上りのはじまりです。
雪が深ければ深いでここの上りは足腰にこたえるのですが、この日のように堅雪状態だときつい斜度の歩きではカンジキの爪が雪によく刺さらず足が滑り、踏み抜きが苦労でこれもまた疲れます。それでも足が沈まないのはあまりに楽。時折左のブナ樹林の間から鳥海山をながめつつ、どんどん高度を上げます。
郡境近く、いつもの大ブナの下でまずは小休止。あたりに2匹のノウサギの足跡が見え、うち1匹の足跡を100㍍ほど先まで目でたどると、行きつ戻りつ、時にはカギ跡をつけ、途中でトッパネ(天敵を警戒し大きく横に跳ねる動作)跡をつけた様子を雪上に確認。この足跡を目にすれば緊張し、また心が躍ります。ノウサギはそこらに伏せているからです。
「ははぁ、そこらに、隠れているな」と、その100㍍先周辺の小柴の根元を見回したら、いる、いる、ノウサギが低木の下にじっと伏せています。とっくにこちらを発見しているようですが、この距離では、いくらカレ(カノジョ)でもまだ無駄な逃げ出しはしません。日中はクマタカなど猛禽類からの襲撃を避けるため、走り回りは極力避けるからです。
「伏せている山ウサギ(ノウサギ)に近づくなら、上方から」が、マタギの鉄則であり、こちらの体験からもそれは100㌫あたっている教え言葉。それで、カレからずっと離れるように遠回りしてカレが警戒をやや緩めるほど上がり、それから尾根のカゲに出てカレの伏せている場所近くまで静かに下がりました。
およその見当をつけていた所で尾根から出て、カレの伏せている低木を確認。その距離約5㍍。カレの姿は見えませんが、根元から跳び出した足跡はありませんからカレはまだそこにいるはずです。ノウサギの跳び出しスタート姿勢は、人の100㍍走スタート姿勢よりもまだ低く、体を極端に伏せ状態にするのですから、雪に隠れていて見えないのです。
下から迫られればとっくに逃げ出しているウサギですが、上から迫られたのでギリギリまで逃げ出さず、間合いをはかっている様子です。こちらがさらにもう1、2歩近づくと、こんどはとうとうカレの姿が見えました。見てください、敵が上方4㍍ほどまで近づいた時のこの野生のウサギの目と表情。いっきにカレは跳び出し、100㍍ほど走っては一休み、こちらの姿を見つけてはまた走り、それを二度ほど繰り返し、それこそ脱兎のごとく郡境を上り越え、山内三又の山に逃げ下りました。走り姿は条件が悪く撮れませんでした。
ノウサギとの出会いの共演を楽しんだ後、郡境の尾根から奥羽の山並みを遠望。お天気は曇りで岩手山などはのぞめず、近くの焼石連峰から栗駒連山までの県境の山々は確認できました。なじみのブナ林を通りぬけ、岩井沢に下り帰宅。いつもなら4~5時間を要するコースですが、堅雪のおかげで、カンジキ履きでも2時間半ほどしかかからぬ歩きでした。