5年ぶりの大日向山行き(その一)

春分の日の21日、5年ぶり(2018年4月1日以来)で村内滝ノ沢地区の大日向山(780,7)へ向かいました。

標高千㍍に満たない郡境の里山ですが、村有地でもある山麓には広大で美しい滝ノ沢自治会のブナ入会林があります。また郡境の尾根筋や山頂からは、里山ながらも、鳥海山はもちろんのこと、岩手山、真昼岳、和賀山塊や田沢湖近辺の山々、焼石連峰、東山や栗駒連山、高松岳・虎毛山・神室山方面、それに月山も遠望でき、さらに太平山や森吉山方面までもと、東北の名の知られた山々の頂の白さがのぞめます。

まことに展望のよいのが大日向山の特長で、山内村三又集落は眼下に、岩手西和賀・沢内方面の集落も視野に入ります。そして、わが村役場や田子内、下田、滝ノ沢の一部、大橋場の橋も眼下に望むことができます。

この日の目的は、雪上の里山でそれらの景色を眺めるのはもちろんですが、私にとっては、もしかしたら咲き始めているかもしれないチヂザグラ(土桜・イワウチワ)の花との出会い、越冬穴周囲で冬眠明けしたかもしれないクマの姿を見られるかも?という淡い期待もひそかに抱いての山行です。

今回は、せっかくの山行きです。それで、おそらく大日向山にはまだ登ったことがないだろうと山仲間お二人を急きょお誘いしました。突然でしたが前日夕方にお二人にご連絡。結果は即決で「行く!」ということで3人の歩きとなりました。私の山行きは計画などなりたたず、急きょ思いつき山行は「とにかくお天気次第」なのです。

時期的にはまだ堅雪本番にはならず雪の締まりが今ひとつと思いましたが、この日までに人里周辺の雪原を歩けばほぼ堅雪状態でしたので「春山登山のはじまりと思っていいだろう。堅雪状態で歩けるだろう」との予測で向かいました。

そんなことで、当初は「帰りの時刻はカンジキが必要となるかも」と考え準備して出かけたものの、出来るだけ荷物を減らしたいこともあって3人とも用意してきたカンジキを今度は「必要ないだろう」と車に置いたまま歩きを開始。しかし結果はこれがとんだ予測違いで、かなり難儀を要する雪上歩きとなりました。

出発は、成瀬採石場の駐車場を午前7時14分。横手市山内・武道に通ずる林道を経て郡境尾根に上がり、そのまま稜線をたどって大日向山頂をめざし、帰りは不動沢へ直線で下るといういつもの周回コースです。

歩き始めの林道は、杉材を雪上搬出する重機の作業跡がありしばらくそれをたどり、途中から林道と分かれるという最短コースの雪上歩きです。ところが、その雪上が前夜からの気温がマイナス1℃程度と高かったためか雪のしまりが不十分で本番の堅雪とは呼べない雪状態です。

堅いところもありますが、ズボッ、ズボッと足を取られる所もかなりあり、「これは予想外、カンジキを持ってくればよかった!」と思ってももう遅し。しかたなくそのまま、ズボッ、ズボッ、あるいはズボズボズボを何度も繰り返すまことにやっかいな歩きがブナ林の尾根に上がるまで続きました。急登続きのズボズボ抜かり、または抜からないと思って足を下ろせばズボッときたりで、山内・金山沢沿いの斜面歩きはなかなか足にこたえました。

途中、小鳥のヤマガラをながめたり、ブナの尾根筋に上がってからは林と雪の厚いダシ(雪庇)の展望を楽しんだり、真白き鳥海山や横手盆地を目に納めたり、昨年豊作だったブナの実を食べようと枝を折り敷き棚をつくったクマの仕業跡を目にしたりして、歩きの難儀さを消してもらいました。

境の尾根に上がれたのは7時50分、雪庇が発達して残雪量が多く、雪のしまりがやや良くなった尾根のブナ林に着いたのが8時53分。

午前中に帰る予定があり、最初の歩きのペースをかなり早めたために、8分目ほどでこちらの足は相当くたびれてきました。72歳と高齢者ですからそれは当然ですが、こんなことは最近あまりなかったことです。

そんな状態で大日向山への5年ぶりの頂上着が9時35分。5年前には「これで大日向に来るのは最後だろう」と思っていましたが、また立つことができたわけで、健康であることの幸せをつくづく感じた山行でした。