ブナ原生林雪上歩き(その1)

過ぎた17日、かねてより計画していた春山の雪上歩きに向かった。

向かった先は、胆沢川支流の岩ノ目沢流域に林立するブナ原生林と仙北街道(手倉越)柏峠周囲までの尾根歩き、そして、街道筋にのこる地名のひとつ「笹道わかれ」の箇所を確認すること。

どんな登山行でもそうだろうが、この山歩きの決行可否は天候によって大きく左右される。雪上の春山歩きは終日の晴天が予測されなければムリ。眺望が望めないだけでなく、雪上の春山は天候が急変すると冬山と同じで危険がともなうからである。濃霧や吹雪によって視界が遮られるホワイトアウトはもちろん、低体温症をはじめ悪天は次から次へと身へ危険をおよぼす。こちらもそういう体験を何度かしているし、かって、先輩や同僚のマタギたちからも遭難寸前の体験談を幾度も聴いている。だから「ムリな入山は危ない」が私の記憶からは離れない。

幸いこの日は終日にわたって願ってもない晴れ空となり、歩きには絶好の一日となった。

朝6時50分、まだ冬季通行止めが解けない国道397号の閉鎖ゲート地点を出発。一行は男女4人。こちらが71歳で最年長。これまでに山行を共にした方もおられるのでわかるが、みなさんの歩き始めの足運びの様子をみれば、皆、かなりの健脚である。

ほぼ直線コースで雪上をたどり県境の尾根に着いたのは8時15分頃。展望のよい尾根で、北から東にかけてどっしりとかまえる胆沢川上流域から焼石連峰の各峰々、雪解け期に入り本流のほとんどの雪がなくなり雪代水の流れが見える胆沢川をゆっくりと眺める。南にはこれから向かう岩ノ目沢流域・丈の倉平(じょのぐらでい)のブナ林や仙北街道筋の尾根がのぞまれ、東山や、遠くには栗駒の峰も目に入る。

休んで後に岩ノ目沢へ下がる。千古斧の音を知らぬブナの原生林に見ほれながらゆっくりと岩ノ目沢の北支沢の底まで下り、続いて仙北街道・丈ノ倉のてっぺんをまずはめざした。

雪上の原生林を経て丈ノ倉のてっぺんに向かうにはちょっとした急勾配があり、それをあがれば丈ノ倉だ。丈ノ倉頂部のほんの一部は街道の雪が解け土肌が出ている。過去の春山歩き時にはカタクリがその地面に咲いていた様子もあったが、さすがに今年は雪解けが遅いためにまだその新芽さえも目に入らない。

丈ノ倉の崖は大雪崩がほとんど落ちた後で、倉は土肌があらわれて冬ごもりを終えたクマたちが動き回るのにほどよい状態となっている。眺望の良いここに一日じっとしていれば、クマの動きはほぼ確実に目に入るだろう。吹きだまり雪上の倉の尾根では視界をさえぎるものがほとんどなし。景色眺めも抜群のところで、小腹の空きを充たしながら再度ゆっくりとここにきてはじめて目に入るようになった焼石岳もふくめ連峰の眺めを堪能した。