この一週間のうちにブナの萌えは森林限界までのぼりつめ、奥羽の嶺は県境部分の頂まで新緑の山へと衣替えを終えました。
わが集落から東方真正面にのぞむ焼石連峰のサンサゲェ(三界山・1381㍍)や権四郎森(ごんしろうもり・南本内岳・1492㍍)も新緑の中に残る雪の範囲が日毎に小さくなっています。
むかし、秋田、南部、仙台と三つの藩境となり、今も秋田・東成瀬村、岩手・西和賀町、奥州市とを隔て県境に位置する三界山は、天正の滝上流部を含む合居川の源流となる山です。西和賀町側は南本内川、奥州市側は胆沢川の上流部となり、それらは北上川へ合流し太平洋へと注ぎます。
合居川は、南本内川上流部と接する三界山すぐ麓の通称「じしょうのてい」(時宗の平・時宗という山岳信仰との関わり深きらしい地名)と名のつく平坦で広大な県境域を源流とし、わが家前で成瀬川と合流、やがて日本海へと注ぎます。
その源流部すぐ下の高所には滝があります。滝は、「じしょうのてい」周辺から流れる湧水と雪解け水を落とし、水量が多い今の季節は山が緑となったので滝が遠くからもよく望めます。
村内の集落から最も高所にのぞめる滝のすぐ北側には、急峻で樹木の生い茂れない崖があり、集落の山人はその崖を「鎧の倉」(よろいのくら)と呼んできました。倉のそばにある滝なので鎧の滝(よろいのたき)というわけです。
10年ほど前まで、春熊狩りや春山登山で何度も何度も立ち寄り、滝の上や下で喉をうるおし集落方面を見下ろした鎧の滝。若い頃、時々の山行をともにした方々との日々をしのぶ、ここは私にとってとても思い出深い滝のひとつです。夏は登山道がないので、沢登りかヤブこぎを覚悟しなければ行けない滝です。