昔から「ゆぎは(雪は)、降るように、ける(消える)」と言いますが、猛烈に降り積もる時の雪のように、雪は解ける時の早さもあっという間です。豪雪の村でも、とりわけ里山の日向斜面では雪解けがいっきに進んでいます。
村内でも、南向きの滝ノ沢の大日向方面から、平良、岩井川あたりまでの山々では、土色の占める範囲が広がっています。マダギの集落で育った我々は、こういう雪解けの山の様子を「山、黒ぐ、なった」といいます。山は黒ぐなっただけでなく、ウドザグ(ハナウドの仲間)が早くも芽をだしていて、雪崩跡や沢筋に出た新芽の緑があちこちで目に入ります。
大日向山のこの黒ぐなった様子や、クマが春一番に食べる里山のウドザグ(茎が空洞(ウド)のサク)の緑を見ると、今年はクマの冬眠明けが早いことを予感します。県内でも雪の少ないところで、条件の良くない冬眠穴に入ったらしいクマの例外出没報道はすでにあります。
これほど山が「黒ぐなれ」ば、山麓では、チヂザグラ(土桜・イワウチワ)が咲き始めているはずです。写真の範囲の大日向山麓ブナ林内には、私が度々通うクマの冬眠穴があります。その穴入り口のイワウチワを冬眠から覚めたクマが毎日眺めているかもしれません。
その大日向山麓の小沢を集めた不動沢は、不動滝に落ち込んで成瀬川と合流します。山麓の雪がなくなるまで沢と瀑布は雪解け水で満ち、一年で水量が最も多い期間が持続する季節入りです。
人里の南向き斜面ではフクジュソウ、チャワンバナコ(キクザキイチゲ)に次いでカタクリなど小花たちが次々と咲き残雪に映えます。雪の脇でのこうした小さな花見もうれしいものです。