おだやか天気に誘われて県境深山へ

22日は予想したよりもおだやかな天気となりました。

休日で空模様は風もなく静かな晴れ。しかも山をみたら積雪の白さはほとんどなしという朝をむかえたので、「こんな日は逃されない!」と早速山へ向かいました。午前は単独、午後は「高い所に行きたい」という娘と二人の山中ドライブと散策です。

午前にめざしたのは「風景の写真を撮りながらの里山散策を」で、もちろんキノコもお目当てに入ります。

いったん林に入ると、いつものユギノシタキノゴ(エノキタケ)やナメラコ(ナメコ)、ムギダゲ(ムキタケ)など初冬のキノコたちが予想外に多く出ていて、もう風景撮りどころではありません。それとも、こうなればキノコも一つの風景写真に入るのでしょうか。エノキタケのなかには、木の葉に隠されていて陽射しがあたらず傘が真っ白なのも見られます。茎が黒いのでモヤシ栽培のエノキタケの白さとは違いますが、裏のヒダが透き通るような白の美しさです。

エノキタケとナメコのそばには、度々とりあげている猛毒のニガクリタケがさらに生長を続けて姿を目立たせています。その猛毒ニガクリタケがナメコと並んで発生している姿もありました。縦写真の上、やや小さな姿がニガクリタケ、下のやや大きめの黄金色がナメコです。この写真では二つの種の大きさも色も比較的違いがはっきりしていますから「判別・同定・見分け」は容易ですが、キノコは環境の違いや生長途上で大きさも、色もずいぶんちがいます。つまり、こうして並んでいると、食のナメコやクリタケと、毒のニガクリタケの見分けができず誤ることは充分にありうるのです。この写真の食・毒二つのキノコの姿は、その間違いの可能性を知るのによい材料だと思い載せておきました。

キノコたちとの時間を過ごしている最中に、林の中で幹の途中に穴が見え、その穴の周りや幹の樹皮が剥がされた跡があります。「何だろう?」と近寄ったら、幹にはクマの爪跡がいっぱいあり、根元には蜂の巣の一部がたくさん散らかっています。そうです、蜂の巣はもちろん野生のニホンミツバチの巣でしょう、クマ公が巣を見つけて襲いかかり、穴口を広げて巣を取り出し、蜜や蜂の子を食べた跡だったのです。

▼さて、この日午後は、娘の言葉に応えて「半日で簡単に向かえる最も高い所」、岩手との県境を越えてブナ原生林をのぞめる深山行きです。初冬の季節になればよく向かうところで、行き先は、地元集落から西和賀町湯田に越える峠付近の県境。

わが集落は、昔から岩手との縁が深い所。現在の奥州市胆沢の胆沢川上流域と、西和賀町湯田・川尻の南本内川流域は、集落と隣接するブナの森の国有林野です。このブログで度々とりあげているように国有林野の払い下げ(ブナ材の伐採・搬出)や利活用(ナメコ栽培、短角牛の自然放牧)などをふくめ、岩手の山でありながらも集落の人々は「わが集落の山」のようにして、様々な利用契約を旧営林署と結び利用してきていたもの。

時代の反映で今ではそれらの利活用はなくなったものの、両県をまたぐ国道改良推進、国定公園の焼石連峰や仙北街道などをふくむ観光・文化面などでの連携は続いています。

例年、この季節になると標高の高い県境には何度も雪が降り、簡単に向かうことができなくなることもあるのですが、この日はいったん降り積もった雪もほとんど無くなりまだだいじょうぶ。岩手南本内川支流の小板沢と成瀬川支流の土倉沢の分水嶺にまで上がり車を止めます。そこはひろくみれば北上川と雄物川の分水嶺の峠ということでもあります。

峠付近を源流とする小板沢の北方にひとつ尾根を越せば、ツルクラという沢があり、昔はそこへ向かうために大がかりな林道が崖を削ってつくられました。その林道は今は廃道となり、車の通行はもちろんムリ。途中からは藪が繁り、落葉後のこの季節でも歩くことさえ難儀です。残雪の春山歩きで横手市山内三又の方が滑落事故で亡くなられたり、わが集落の方々をはじめ多くの山林労働者が春山作業で過ごしていた宿舎が3月のワス(表層雪崩)に襲われ、数人が命を奪われた雪崩発生の危険な崖もすぐ先に待ち受けています。

この日は、散策気分で歩ける程度のところまで向かい、南本内川流域を広く望むのが目的。

落葉後の山は見通しがききます。峠そばにでんと構えるのはホンネガァアリス(本内川蟻巣・蟻巣山のこと)。それから左に小さく一部の山体が雪を載せて見えるのは焼石岳隣の南の森です。焼石岳は三界山に隠されています。北のこの方角からだと、いつも西から眺めているサンサゲェ(三界山)も、権四郎森(南本内岳)もやや違った山体になって見えます。さすがに権四郎森は全体がよく望めます。

昔、雪の春山をよく歩いた時のように、蟻巣山麓を経由して三界山に登り、胆沢川流域との境を経て大森山に至り焼石登山道の起点に下りるという合居川周回コースの山行を来春に計画しています。その時を思いながら、眼前に広がる歩く予定のコースを目で追い、後の山行のためにカメラにも収めました。

歩きの終点では、大きなブナの倒木に食べ頃に輝いたナメコがいっぱい。途中ではキクラゲやジェンコシナダケ(オツネンタケモドキ)も。ジェンコ(銭)の形をした、しない茸という方言の意味でしょうか、とにかく噛みきるのはなかなか大変なキノコのオツネン(越年)タケモドキです。乾燥すれば味が濃くなり、その旨味はうどんなどの出汁としても、味噌汁に入れても楽しめます。

帰りには、土倉蟻巣山そばの尾根からカビラ沢(合居北沢)を眼下に眺め、合居川渓谷全体から雲に覆われた焼石や連峰の嶺を望みました。残雪の春山でならよく眺められる景色ですが、落葉後の初冬、積雪前に渓谷のほぼ全体を展望したのは久しぶりのことでした。