標高はそれほど高くない焼石岳(1548㍍)ですが、列島の北に位置し、なおかつ日本有数、ということは世界有数の豪雪地帯の山という条件下にあります。さらに奥羽の脊梁として位置しているだけに冬期は日本海側からの強烈な北西の風雪に見舞われることから、頂上もその一帯も独特の植生が発達、それが「花の百名山」といわれるこの山の特徴となっています。
この日の頂上も、まわりの残雪と花たちがつくりだす絶景が360度の展望を楽しませてくれます。頂上で、ハクサンイチゲ、ミヤマキンバイ、ミネザクラが花盛りで、昼食をとりながら東の北上平野をじっくりながめます。
眼下には水田のなかに家々が散在する奥州市・胆沢の屋敷林をふくむ「散居集落」を望み、北には、雲に頂が隠されながらも岩手山の裾が目に入り、それより南には早池峰山も。真正面近く北上山地のなかで目立つ頂は太平洋そばの五葉山でしょう。直下の花の楽園・ンバイシティ(姥石平)には、遠目の利く私の眼にハクサンイチゲの花群落の白さがかすかにわかり期待がいよいよふくらみます。
暑くも寒くもない快適なお天気で、頂上でゆっくり過ごし姥石平へ下ります。途中には咲き出したイワウメもあり、南の森の雪渓に見とれ何度も歩を止めます。若い頃よく雪の山を歩いた胆沢川支流の細鶴、大岩、小岩、風よどなどの沢やそのカッチ(最上流部)の湿原、前倉などのクラ山(崖山)、笹森や小出川方面の山々を望み、当時をしのびます。昨年歴史の道100選にあげられた仙北街道方面もいいながめです。
横岳分岐まで下りたら横岳コースへ向かい、群生が見えだしたハクサンイチゲやユキワリコザクラを堪能です。ミヤマシオガマやチングルマも咲き始めてほんの数輪が見られます。ここまでだけで、「花のいい時に来られてよかった」と充分に満足の山行きでしたが、この日の最後の花舞台ハクサンイチゲの競演はもう少し先で、それは見事なほどまでの美しさにととのえられていました。
▼13日(土曜日)、午後、村の直売所を訪れた秋田市の中年のご夫婦が「魁新聞のハクサンイチゲの記事を見て、焼石にのぼってきた。ハクサンイチゲがきれいだった」と語りながら姥石平の花や雪渓を歩くクマの写真を見せてくれたそうです。こちらにも新聞記事やブログなどを通じて「焼石の花はすごい」という声が寄せられています。そのハクサンイチゲ、今週いっぱいは全域での花盛りが見られ、今はミヤマシオガマやチングルマも花数が増えたのでしょうからまた少しちがった絶景がのぞめるはずです。
月末になれば、8合目焼石沼のミヤマキンポウゲやハクサンチドリなど数多の花が咲き、ここでもまた高原の花リレーが続いて、絶景のバトンが次へ引き継がれます。