県境尾根の雪景色とノウサギ(その1)

休日で晴天となった7日。予定は中学校の卒業式に向かう日だっだが、後の小学校もふくめ来賓の参加がなくなった。8日の猟友会ノウサギ巻狩りも新型コロナ禍中止となった。

前日に10㌢ほど新雪が降っていたので「県境の尾根まで上がれば、いい雪景色が見られるかも」と、妻には前の日から「空がよければ山に向かうかも」と告げていた。

明けた7日朝。期待通りの晴れ空とまではならず、向かおうとした県境の尾根、奥羽の脊梁方面には雲が厚い。それでも「後に晴れてくるだろう」と7時半過ぎに自宅を出る。

ジュネス栗駒スキー場方面分かれ、冬季閉鎖の国道397号から歩き始めは7時45分。予想したより雪が深く、カンジキをつけても足が20㌢以上雪に沈む。吹きだまりではそれ以上だ。これだけ足がぬかれば早歩きはできない。しかも、場所によっては2段ぬかり(一度踏み込んだ足がさらに下に沈むこと。これは歩きにくい)もある。

歩き始めて200㍍ほど。「ここでこの雪の深さだと、標高を上げればさらに深くなるだろう。尾根までは無理かな?」でも「まず、上がれるところまで行くか」と、止めるか行くかの思案を混ぜながら歩を進めた。結局、そういう「もやもや心」のまま予定の半分以上の距離を上がった。そこからは天気も青空が次第に増えてきた。それもあって「尾根をめざす」ことをようやくはっきりと決めた。

歩きのコースは、昔の狩人が猟に向かった道、ブナ材の春山伐りだしの人々が県境の尾根を越え胆沢川流域の国有林に向かった道と同じ。県境に最短で上がれるほぼ直線の雪上コースだ。しかしこの日は、直線コースをとっても前日の新雪もあって足がぬかり時間がかかる。

すすこや(すずこやの森)の上部、通称「ゴンパ」近くまで上ったら木々に張り着いた雪が陽射しで解け始め、ブナの林でその雪の片がいっせいに音をたてて落ち始めた。林内はその雪煙りで霧がかかったようになった。それはまるで雪のシャワーのようだ。「早く着かねば、樹から雪が落ちてしまう。せっかくの雪景色が拝めない」気は焦る。

気は焦るが、カンジキ履き20㌢越の雪漕ぎ一人歩きはやはり時間がかかり、県境の尾根にたどり着いたら12時を回っていた。たったここまで来るのに4時間半もかかったことになる。県境にたどり着く手前では尾根筋に人影がちらりと見えた。スキー場から上がってきた山スキーを楽しむ方のようで、彼は、雪庇の発達した尾根の風上側、安全な場所を選びながら大森山方面へ上がって行く。

県境尾根の雪景色を期待していたが、そこでも木々から雪が落ち始めている。かろうじてまだ雪が着いている木々や胆沢川、焼石方面をひとまず眺めた。里は、記録にのこるほどの少雪で早い春の訪れだが、ここ県境のブナ林と焼石連峰はやはりまだ真冬の様相。時折青空がのぞくが、雲の流れは速く、横手盆地からの西風が強く当たる県境の尾根は寒い。木々には強い北西の風によってできる海老のシッポ(冷たい強風によって雪が木々に張りつき、風下側に出来た海老のしっぽのような雪の造形)も。

「休憩どころではない。こうしてはいられぬ」と歩きながら食事をとり、千古斧の入らぬ胆沢川支流岩ノ目沢の原生林に向かう。もう正午をとっくに過ぎ、青空の範囲も多くなった。それでもここまで上がれば気温が低く、木々にまとわりついた雪がまだ多く残っていて、斜面を上がり下がりしながらほぼ期待に近いブナ林の景色を眺め続けた。

後にまた北上川と雄物川を隔てる分水嶺の県境尾根に上がり、青空のやや増えた同じ景色を展望し村側の通称「ゴンパ」のブナ林をまた下る。ここは、昔からノウサギ猟の絶好の狩り場だったところだ。