大森山トンネル秋田口の南から岩手県境の尾根に向かう林はススコヤ清水の源流部。ここら一帯は昔から通称「ゴンパ」と土地の人々が呼ぶ山。沼又沢国有林のノウサギ狩りでは絶好の猟場の一つであった。
伐りのこされているブナの老木たちと若齢のブナ林をながめながら、昔の狩りの頃をしのび尾根にたどりつけば視界はいっきにひらける。
秋田側の国道除雪は23日に終わっているが、岩手側は裾の森(本流左岸の森)からかいち橋、ダダラ方面までまだ除雪跡が見えない。大岩から細鶴沢あたりにいるのだろうか、ここからはよく確認できない。したがって、この日、広大な胆沢川上流には私たった一人。
一人でじっくりと、北から、グシ、サンサゲェ(三境・三界山)、権四郎森(ごんしろう・西和賀では南本内川の源流部にあたるからだろう南本内岳と呼ぶ)、焼石、南の森、横岳、獅子鼻の焼石連峰を一望し、さらに南に目を移して、手前に横たわる丈の倉の崖を含む仙北街道の尾根を、その奥向こうに連なる二つの東山や栗駒の峰々を望んだ。
時折青空がのぞくものの朝の空はまだ曇り、動かなければ少し寒いほど。なので、岩ノ目沢に下りてまずはブナ林をゆっくりと散策。
砂防ダムのあるかいち橋付近、通称「ダダラ」より上流部の胆沢川のブナ林は、これまでここでも紹介してきたように、岩井川の愛林組合が旧水沢営林署愛宕担当区管内として払い下げを受けてブナの択伐やその切り株にナメコ栽培をした林。トンネルをぬけてからの国道左右の林のほとんどは、すべて組合と、その一員であるわが家も関係したブナの搬出跡だが、唯一ここで伐採に手をかけなかったのが岩ノ目沢の県境にひろがるこの林である。
同じ岩ノ目沢のなかでも、右岸のジョノグラディ(丈の倉平)と呼ぶやや平らなブナ林はやはり択伐(必要な材だけ選んで伐採)され私もここの搬出作業に従事している。沢の中流域はまだいわゆる千古斧の入らぬ原生美林。ブナも、ちょうど北俣沢や小出川沿いの原生林と同じように私には見ほれるような林相が延々とつづく。
それを下りて、岩ノ目沢の北の沢をこえる。雪の多かった昨年に比べて沢の雪は少なく、雪を踏み崩して沢に落ちないよう気をつけながら下から水音が聞こえる沢をこえた。
丈の倉も昨年に比べて雪消が早い。仙北街道に到着したら10時半。ここだけいつものようにダシ(雪庇)がほとんど落ちていて土の登山道がきれいに出ている。時間の頃合いもよし、眺望もよし、おまけに、カタクリとショウジョウバカマも咲いていて、ここは春山としては毎年絶好の休み場。少し早いが、私の山登りに決まった昼食時間などなし、いつでも食べられる時に食べる流儀でパンをゆっくりと口にする。