ブナ原生林雪上歩き(その2)

丈ノ倉の展望を楽しんで後に向かったのは、小出川流域がのぞめる柏峠周辺の尾根である。
夏道がほんの一部出ている丈ノ倉上部の土をわずかの間踏んで進む。左に岩ノ目沢筋の本流、右に明通沢筋のカッチ(上部)の一部を眺め、県境(成瀬川と胆沢川の分水嶺)をほぼ街道筋に沿って東南方向に進んだ。圧雪上歩きは登山道なしなので全員自由気ままだ。

尾根は厚いダシ雪(北西からの風が運んだ雪庇)が何㍍もの厚さで積もり、そのダシ雪が低木をすべて押さえているので視界をさえぎるものはなし。しばらくの間、抜群の眺望を楽しめる尾根歩きが柏峠近くまで続く。

柏峠付近は林も尾根も雪が深くどこが峠の石標箇所なのか今はわからない。ただ、一帯の最高地点らしき平たい尾根(1018㍍)にたどりつき、ここで昼食とする。到着は11時10分。そこは岩ノ目沢と小出川の分水嶺(柏沢)で、眼下には小出川やその支流栃川、ツナギ沢、東山沢など流域の山々や谷筋がひろがる。東山もデンと目前に座している。いつかこの柏峠尾根から東山をめざしたいと思っていたが、尾根筋につながる東山北側の山麓はすべて大きな雪崩地帯と崖が多く、雪上春山の雪崩シーズン、こちら側からの登頂は我々程度の歩き技術の水準ではムリと思った。東山北東の春山雪解け期は、村内でも最も上りにくい山といえる。反対方向からの登頂なら我々でもできるだろうが。

ここでこの日の山行のひとつの目的であった「笹道わかれ」の箇所がどこかを、笹森山や大高鼻沢方面への尾根筋を見ながら柏沢方面の尾根を少し歩いて探した。しかし、その程度の歩きでは「分かれ」地点の推定はできなかった。もう少し尾根や林の斜面を「山の神」や「粟畑」方面まで下がれば確認を助ける何かがあったかもしれないが、こちらのこの日の脚力はここまでが限界、ムリに探しまわることは止めた。笹森山周辺で発生する遭難救助では、仙北街道から笹森山に最も効率よく向かう道筋を覚えることが大事で、「笹道わかれ」にこだわらず、またいつかの機会にその通り筋を知るための歩きをしたいと思う。

昼食後、リュックを置いて街道筋らしい尾根を笹森山方面へ一同で散策。歩く地点もすべてダシ(雪庇の塊)なので眺望がよく、焼石と獅子鼻はそれこそ胆沢川をはさんで目と鼻の先だ。ここでの眺望にもじっくりと時間をかけた。

12時20分、峠からの復路を歩き始めようと発つ。復路もやはり尾根筋や丈ノ倉からの展望、そして往路とはちがう岩ノ目沢の原生林を経て、帰りは沢底まで下りず尾根に上がる。かなり遠回りになったが県境の尾根伝いにどこまでも歩き狼沢カッチの尾根に着く。

それからは往きとは別のコースで一直線に竹まるぎ場(たけまるぎっぱ)まで下がった。そこで、沼又沢を渡渉してブナ林下に咲くイワウチワの小さな花群落をながめ、この日の歩きの楽しみを終えた。車到着は4時に5分前。およそ9時間の山と谷歩きは「15~16㌔ほどの距離だった」との旨を同行の地域おこし協力隊の青西靖夫さんが教えてくれた。車を駐めた周辺や国道沿いの斜面には、キクザキイチゲやカタクリ花が真っ盛りだった。