85歳で燃えさかる若者の心を小説に

若い頃、長く仕事でお世話になったN氏から、おととい少し厚めの封筒で便りが届きました。

開封したら、中に収まっていたのは小説。そこには「冠省  突然で恐縮ですが、自作の小説を一編お送りしました。八十五歳になって初めて手掛けた創作です。実は義兄(姉の夫)が前大戦で戦死したのですが、戦後七0年間、この件が忘れられず、「ボケないうちに」と思って書き纏めてみた次第です。――ご笑覧いただければ幸甚です。皆様のご健康とご自愛を願って  早々」と記された言葉が添えられておりました。

N氏は、私がお世話になった当時から、話し言葉、文章の論理が明快で、かつ難しいことをやさしくわかりやすく表す文書というものに心がけられた方でした。それだけに、私などは、文書の書き直しでよく厳しい指導をされ、直された後の文書は骨と肉がなくなって皮だけしかのこらなかったということも度々ありました。

しかしこちらは義務教育時代の大半は学校の学びがまったくいい加減、そのため土台がほとんどできていませんでしたから、そういう指導をされた割には成長できずその状態が今も続いています。脇にそれますが、封建社会の寺子屋に通った子たちのように、「子供時代に読み書きの基礎を徹底して養っておくべきであった」は、私の痛恨の思いです。とにかく小中学校と、学びからあまりに遠いくらしを過ごしてしまいました。

さて、公立高校の教諭も務められたN氏は、すでに大冊を含めた社会運動史などいくつかの論文で編集・執筆者として活躍され、今なお研究論文などで健筆を振るわれております。しかし、「当時のN氏を思えば思うほど、まさか、小説を著すとは。それも85歳で、戦争と愛を主題にした作とは」と、まず驚きました。

小説の内容は、公立病院の医師であった義兄(独身)が軍医として南方戦線に召集され戦死するまでの実話を基にした創作です。国のちがいをこえて、平和の尊さと、人間愛、戦争というものをはさんで時に熱く時に深く燃えさかる若者たちの愛を掘り下げたものです。創作は、主人公をめぐって、祖国にのこした相思相愛の許嫁と戦地で出会った外国人女性の心の葛藤などをあらわしたもので、いっきに読み手をひきつける力が文章にはあります。

年齢を知らされなければ、おそらく85歳の方が著した作とは思われないいわば「青春小説」。この熱い心がちりばめられた創作を読ませていただき、「まだ数えで66歳の自分など、年寄りじみたことを言ってられないな」と、己を振り返ったところです。

▼屋根から下ろした雪がこのように積み重なり、我が家はいつもの冬のようにもう少しで二階の窓から出入りできるほどになっています。ほぼ平年並みの積雪でもこうです。今後この高さが増さなければよいのですが。