ほかの方々にわが村をご紹介する際、私は時々「ここはブナの村」と申し上げています。
部落・自治会の入会林野から民有林、そして原生林の多くをもつ国有林と、ブナ林の蓄積量が多く、村の入り口から出口まで成瀬川とその支流をはさんだ山々は広大なブナ林に覆われています。
村に属していない隣の岩手と接するブナ国有林も、その多くはむかしから村人の生活をささえ続けた山々。道路網が発達した今も、栗駒・栃ヶ森山系、焼石山系、南本内川流域、仙北街道筋は県のちがいなど関係なく麓に暮らす人々がありがたく利用してきたブナの森です。
そのブナの森と渓谷、今年の夏はいつもより人の入りが多くなっています。イワナ釣りなど釣り人の数はいつもの年と同じでしょうが、この前紹介しましたキノコ採りの人々が、村と奥羽深山のブナの森に連日入っているからです。
お目当てのキノコはもちろんお盆前のトビダゲ(トンビマイタケ)。できれば幼菌を利用したいキノコなので最適の採取期間は極めて限られるのがこのキノコ。「堅くならないうちに」と、プロからセミプロ、自家用採取人と、人々はキノコが発生するブナの枯れ木や半枯れ木を目当てに谷や斜面、尾根を縦横に歩きます。
そういうわけですから、山に入れば馴染みのお顔といっしょになることもよくあります。同じブナの森でもキノコのよく出る場所、自分の通う山はほぼ決まっているからです。
村のSさんご夫妻はキノコ採りのプロ中のプロ。私が夏の山でよくごいっしょする方で、今年も、大きなブナの根元でまっ盛りのトビダゲをいっぱい背にしていました。そのSさんと二人ブナの木陰で小休止。「こごで、カガ(妻)と二人、クマに、飛びつかれて、噛じられたごどもある」と、いまでは愉快そうにむかしの逸話をSさんは語ってくれました。
クマの本拠地に入るキノコ採りですから、彼らとの遭遇はよくあること。二人で大笑いしながら語っていたのを、もしかしたらこの森の主のクマが木陰で聴いていたかもしれません。