やや距離の長い山行なので出発は早朝とし、すずこやの森からの歩き始めは5時25分。
頂上などで人が多く会話の時もあるだろうと、マスクをポケットに入れての山入りである。
駐車場には、登山者はもちろんタケノコ採りの車もまだない。ここからの県境の尾根の一部は、若い頃に岩手側から集材機で大森沢のブナ材を択伐・搬出(利用する材だけを選択して伐採・搬出すること)した時の拠点であり、狩り、雪上登山でもよく歩いたところ。
今年は登山道にことのほか残雪が多い。それでも初夏の花イワカガミが咲き始めている。このコースの登山道はほぼ尾根上をまっすぐ北に延びる。その尾根の冬は、横手盆地と成瀬川を渡って吹きつける西北の季節風をまともに受けるところ。さらに県境のすぐ東端は急峻な崖が多く、風雪はここで溜まり大量の雪庇をつくる。なので、登山道には雪解けの遅い場所もあり、サンカヨウ、ショウジョウバカマなど春の花たちが今も所々で見られる。
姥懐からの登山道と合流するまで1時間近くかかった。歩く時間が往復2時間弱これまでより余計にかかるわけで、「予定通りの行程が出来るかな?」と、少々の心配がうまれた。
急に雲が厚くなりパラパラと雨も落ちてきたが、雨具を着けぬままのうちに降りは止んだ。
分岐で合流してすぐにブナの切り株にユギノシタキノゴ(エノキタケ)が出ている。今年は野生のエノキタケ、ヒラタケ、シイタケがめずらしく極端に不作の春だったが、このキノコは肉厚で勢いがよい。「帰りの土産にいただこう!」とそのままにして上がる。紫色鮮やかなスミレの仲間が花見の対象に加わる。五合目シャガヂアゲ(釈迦ざんげという名もついている)はイワカガミやミツバオウレンが美しいだろうとそちらへ上がり小休止。
栗駒山方面も、これから登る焼石方面もよく見える。朝早くなので、手倉越(仙北街道)方面のブナの樹海を覆う霧景色もなかなかの見応えだ。雪解けの遅いこの地点では早春の花カタクリも咲き始めの姿で見られる。以後の登山道沿いには、姿かたち様々なショウジョウバカマとタムシバの花が咲き歩きを退屈させないでくれる。
胆沢川に下りたら、途端にそこは雪の多い世界。谷沿いはブナの新緑と残雪景色が所々に広がり、ツバメオモトが咲き始めている。オオバキスミレ、シラネアオイ、キクザキイチゲと、やはり春の花がまだ多い。登山道は所々が雪の道で木の跳ね上がりには要注意だ。
ブナが森林限界となる高原に入り、焼石沼近くの畚森(もっこもり)とタゲのすず(岳の清水)が近くなると、今日お目当てのキヌガサソウに満開で出会えた。エシャガイヂゴ(胆沢川いちご・ノウゴウイチゴ)の花とミズバショウも真っ盛り。リュウキンカは蕾も多いが花も充分に観賞できる。この花たちを拝めただけで今日の山行は充分だが、さらに上にはもっと多くの名花たちが待っているはず。それを期待して、清水の湧き口がまだ雪で覆われているタゲのすず(清水)で喉をうるおし、残雪が水面の一部を覆っている8合目タゲの沼(焼石沼)で小休止。時刻は8時30分。ここまで約3時間もかかってしまった。