毎年お知らせしているように、岩ノ目沢の林は千古斧の入らぬ原生美林。沢のまわりや近くは、県境をはさんで岩手、秋田とも、ほとんどが択伐(良質の材を選択で払い下げ伐採)された国有林や秋田側では皆伐の民有林、国有林も多いのですが、岩ノ目沢本流の北側はどんな伐採の手も入らなかった歴史があります。
岩ノ目沢は大きくふたつに分かれ、本沢は仙北街道(手倉越)の丈の倉の下を通って県境直下を南東に延び柏峠近くまでつづき、ひとつの大きな支沢は西に県境までのびます。この日の気温の低さの持続と堅雪状態ならば丈の倉までも簡単に行けそうですが、ムリをせずに支沢の範囲での行動としました。ブナ林だけの観賞ならそれで充分だからです。
林内でゆっくりと過ごした後に同じ県境尾根へもどり、やや増えてきた青空の下で胆沢川本流域の林や県境にできた雪庇などを何度も往き来してながめました。厚い雲がまだ流れていて、標高の高い真白き焼石連峰は昼ちかくになっても姿を見せません。
この日の山行目的は、雪庇の発達した尾根でも、風の静かな林でも、樹木を新雪がやわらかにまとった光景を眺めることでした。尾根でも尾根付近の林でも終日気温が低く、夜半から朝にかけふんわりと降った雪がそのままかろうじて枝に着いていてくれました。尾根から標高をわずかに下げただけで、気温が上がりその雪風景はなくなってしまうのです。
おかげで、林や尾根の美しい雪風景は、「うわーッ、雪の花だ、雪の華だッ」と、声をあげながらなんとかめざした目的でながめることが出来ました。
登りも帰路もほぼ最短行。しかも日中も気温が低いままだったので下りもカンジキいらず。3月はじめで終日カンジキなしで歩けるという山行でしたので、車に到着はすこぶる早く午後1時。あまりに早く帰ったのでなんだか拍子抜けのような気も。寒さもあり約6時間一度も座らずの二人の山行。でも、携帯はわずか8,800歩しか刻んでいませんでした。
Iさんも、私と同じでこの日は空模様をみて予定より出発時間を1時間ほど遅らせたということ。おかげで二人の歩き始め時間がちょうど同じとなり、そんなうれしい偶然が重なって、語り合いながらの楽しい山歩きとなりました。ものごとには計画や思惑どおりでないことがおきて、そこにはいろんなプラス要素も時にはうまれることもあるものです。
景色をながめる時とはちがい、山を下り次第に青空が多くなりました。カントリーパークで県境尾根を振り返り、増えてきた青空を見て、「もう少し早く、あの青空が出てくれればなぁ」とため息です。出発を1時間遅らせて青空時間を待とうとしたのですが、歩きが早かったためにいっぱいの青空が来る前の下山となってしまい、歩きやすさがアダとなったという訳です。お天気と山行では、こんな皮肉なことがよくあるものです。