朝早く出れば2時頃には帰れるだろうと、きのう焼石に向かった。
初夏の第1ステージ花盛りの山はいつも6月半ば過ぎ頃。来週の19日は行事も会議も入らないので、天気はまず脇において「この日は山へ行く」と決めていた。
その19日は、まだ焼石に登ったことのない方もいっしょにご案内の予定。そういうこともあって、「山の花や登山道の様子を下見しておこう」と向かったのが昨日の山行である。
5時10分に歩きを開始。県境の山は厚い霧に覆われている。駐車場にはまだ車が1台もない。この季節はマイズルソウやツバメオモトが登山道脇でまず花盛りで迎えてくれる。
それらを写して、すずこや道の分かれの水たまりでサンショウウオの卵を撮ろうとしたら、おやっ、カメラが1つない。なんと、最初の花を写した登山道口に忘れてきたようだ。急いで下ったら、タケノコ採りの姿をした中年の方と行き会った。「道にカメラを忘れてしまって」とのべたら、「ああ、あったよ」と言葉を返してくれた。踏まれないように、目立つようにカメラは木の根元にていねいに寄せてくれていた。上がり直したらその方がまだ「採り」に入らず登山道で一服していたのでお礼を一言申し上げた。増田の方といわれた。装いから察して山に入り慣れた方のようだ。
「カメラ(いちばんの道具)を道に忘れるとは、どうも、今日はどうかしている」と思いながら歩きを進め、胆沢川に下りてすぐ、右膝下のふくらはぎが急に痛みだした。こんなことは山歩きで初めて。この程度の歩きで足にムリがかかるわけがない、なんだろうと少し休み、消炎沈痛剤を施すが、痛みはとまらない。でもなんとか歩けるので、「予定の全行程はムリ。焼石沼までで引き返そう」と判断、ゆっくりゆっくりと歩を上に進めた。
「焼石沼まで」というのには理由がある。沼の周囲のリュウキンカやキヌガサソウだけは、どういう様子かどうしても見ておきたかったのである。
花の百名山焼石の花の見所は8合目からが主な舞台の始まりだが、そこまでの間にも、今ならではの野草や樹木の花が歩く人を飽きさせない。
マイズルソウ、ツバメオモト、ムラサキヤシオツツジ、コミヤマカタバミはその主役クラスで、標高を上げるにつれ所々でミツバオウレン、イワカガミ、ツマトリソウ、シラネアオイ、ノウゴウイチゴ、ズダヤクシュ、サンカヨウも舞台にあがり、8合目近くになればリュウキンカとミズバショウの群落美が圧倒する。おまけとして見られるチシマザサの花も、亜高山は紫色が濃い。そして、何より「この花を観るために痛みをムリして」上がってきたキヌガサソウがちょうど花盛りだった。ムリした甲斐があったというもの。
まだ朝8時。焼石岳も南の森も権四郎も三界山も、連峰はまだ濃い霧に覆われている。8合目の草原は、サンカヨウとノウゴウイチゴ、フキノトウ、エゾニュウなどを除けば野草は芽吹いたばかりで草丈が低くすっきりと見通しが利く。ミネザクラも8分咲きだ。雪消の早い水辺と湿地にはリュウキンカが花盛り。桜と同じようにまだ蕾だけの草株もいっぱい。
残雪が冷たそうに浸かる焼石沼にゆうゆうと泳ぐイワナたちを見て、山に登れない妻へのお土産に「タゲのすゞ(岳の湧水)」をペットボトル2本に詰め、予定通りそれ以上のムリはせずに沼で引き返した。
帰りには男女それぞれ単独の登山者3人と行き会いご挨拶。女性の方一人で登るのだからたいしたものである。駐車場に着いたら、60~70歳代らしい女性たちもふくめタケノコ採りの車でほぼ満杯状態だった。みなさんマメなものである。
登山道も車道も、村や観光関係の方々の手によってこの間きれいに整備され快適な歩きができる。姥石平のハクサンイチゲやチングルマ、ヒナザクラ、ユキワリコザクラ、ミヤマシオガマなどが19日には花盛りで見られるだろう。それまで、足の痛みを治すよう養生です。